2015年2月28日土曜日

ウィスキーの話

 私はけっこう前からウィスキー好きであった。
 しかも友人にもウィスキー好きが多かったり、知人がニッカウィスキー関係者だったり、バーのマスターがいたりと、環境的にもウィスキー充といえよう。

 なので、NHKの連続テレビ小説「マッサン」は、制作発表の頃から期待しまくっていて、今も毎日楽しみにしている。
 マッサン効果で、そこらじゅうでウィスキーの売り場が拡大され、多分売上も伸びて、メーカーがあてこんで出してくる変わったアイテムが並んだりと、好きな人には楽しい事態になっている。
 その代わり、いろんな国産ウィスキーが売れすぎて出荷制限掛かってるとか、そんな話もあるのだけど。

 このblogでも便乗してみよう。


 ウィスキーを飲むなら、なにかこう、カッコよく飲みたい気はする。
 しかしあいにく私にはまだまだ、かっこいいウィスキーの飲み方、なんてものを語れるような貫禄も円熟味もない。
 ひとがカッコよくウィスキーを飲む姿、というのもあまり見たこともない。

 サントリーウィスキー山崎蒸溜所の見学にいったとき、見学コースが終わった後に、ウィスキーのテイスティングコーナーがある。
 飲み屋ではなくメーカーの試飲だからか、本当に品代だけっぽい値段で、ハーフショット (0.5 oz = 15 mL)だけ出してくれる。
 これはもうウィスキーファンならたまらないサービス。

 そこに、定年過ぎてすぐくらいのおじさん四人組がいた。
 囲んでいるテーブルには、空いたグラスがぎっしり。
 こりゃかなり長いこと居座って飲んでるな、って感じだけど、それでもまだ、グラスをどんどん追加している。
 みんな完全にできあがった赤ら顔。
 酔った勢いもあってか、話し声も大きい。山崎蒸溜所は静かな山のふもとで、できあがったおじさんの笑い声がよく聞こえた。

 それを見ていて、まあその、居酒屋じゃないんだから、と、かっこ悪く思えたのも正直なとこではあった。
 しかしながら、気のおけない仲間とともに、あの自然の中で蒸溜所を背に、いいウィスキーをたくさん並べて片っ端から試す、というのは、そりゃ楽しいに決まっている。
 見場はともかく、最高の飲み方のひとつといっていいかもしれない。
 カッコいい飲み方と気分いい飲み方は、必ずしも一致しないようだ。


 私は普段、家でひとりで飲むことが多い。一番安上がりだし。
 別にカッコよくなく飲む。
 つまみもごくふつうのもの。スーパーで買えるようなチーズ、ミックスナッツ、ポテトチップスとか。
 ウィスキーも、まあたまに高いの飲むこともあるけど、普段はそんなに高級なものは飲まない。安くて美味しいのもいっぱいあるしね。

 ただ普通と少し違うというと、私はショットグラスじゃなく、ぐい呑みで飲むことが多い。
 お猪口だと小さすぎるのだけど、ぐい呑みはウィスキーをやるにもピッタリの大きさだ。


 このblogでも方々徘徊している通りで、私はあちこち遊びに行く。
 それで焼き物の里を訪ねたり、いい陶器店に入ったりしたら、そこでぐい呑み買ってくる。それがコレクション的にいっぱい集まっている。
 膳所焼の、ほぼ黒い中に光の加減で赤みが見えるような詫びた色合いのやつがあって、そこに琥珀色のウィスキーを注ぐのがなかなかにいい。これがお気に入り。
 信楽焼の、内側に白釉が施されたやつは、やっぱりウィスキーの色が映えるので、使用頻度は高い。写真のやつね。
 他にも丹波立杭焼とか萬古焼とか、奈良の桜井あたりで山辺の道をちょっと逸れたところにあった窯元で買ってきたやつとか、いっぱいある。

 大体ダブル1杯くらいの量だから、ちょうどよい。
 値段もほとんど数百円、作家モノみたいなのでも数千円くらい。
 小さいから集まっちゃっても困らないし、飾っておくというかその辺に並べておいても味がある。
 わざわざ陶芸の里なり陶器市なりに出かけたり、旅行先で見かけた陶器店にふらっと入ってみたり、手に入れるという行為にストーリーを付与するとなおよし。
 焼き物についての本とか読んでみるのもいい。柳宗悦の民芸運動の本なんかオススメね。数百円の雑器を楽しむことに引け目がなくなる。

 そんな数々のぐい呑みコレクションから、今日の気分と飲むウィスキーから吟味して……ということはなく、目についたやつを手に取る。
 で、ウィスキーを注ぐ。
 氷も水も入れないストレートで。
 ウィスキーは冷やしておいたりせず、常温で。

 私はオンザロックは好きでない。
 実のところ、あんまり酒に強くないもので、飲むときはちびちびゆっくりやる。
 しかしオンザロックをちびちびやってると、氷が溶けてしまってどんどんゆるくなってしまう。
 バーで大きな氷を使ってくれるならまだしも、家で小さなキューブアイスなんか使ってたらいよいよダメ。

 水割りも、あれは結構難しい。
 そもそもウィスキーによって、水割りへの相性がかなり違う。
 上手く加水するとより香りや味が引き立つようなものもあるけど、単に薄まって全然ダメみたいなものもある。
 かなり薄くしてしまっても耐えるようなウィスキーもあれば、ちょっと薄めにしたらすぐ台無しになるものもある。
 これだけ多種多様なウィスキーがある時代に、ウィスキー一本ごとにいちいち適切な加水量を追い求めながら飲む……というのもひとつの楽しみかもしれないから、そこに探究心が燃えるならいいかも。
 日本酒の燗酒に通じるものがあるかもしれないなあ。あれも、燗つけるのが合う酒合わない酒、ぬるめがいいのもあれば熱めがいいのもある、らしい。

 私はストレート派だから、器もぐい呑みでいける。水割りやロックだと別のグラスがいるな。
 そして注いだウィスキーの色を楽しみ……というのは、焼き物で攻めてる場合は、内側が白いのを使った場合に限られる。
 そういえば紅茶の世界では、白磁の器の中でもやや黄色っぽいとか青っぽいとかがあって、それと紅茶の色との相性を考えなければいけないとか。テレビの「美の壺」で見た。
 ウィスキーぐい呑み派にも、紅茶から理論を取り入れられるかもしれない。

 黒や赤の器であっても、無色透明な日本酒とは又違った、ウィスキーの琥珀色との兼ね合いが微妙な色合いを出す。
 内側が金箔張りなんてのを洒落で買ったこともあるが、これはこれでゴージャスげで面白かった。信楽焼だったんだけど、うっかり落として割っちゃったな、あれ。


 ああそうだ、ウィスキーの色といえば、部屋の電気はあまり青っぽいものにしないほうがいいと思う。ちょっと不味そうになっちゃう。
 蛍光灯とかLEDは、クール色じゃなくて昼光色で。
 いっそ電球色でもいいんだけど、趣味で絵を描く人とかだとさすがに問題があるか。

 部屋ごと電球色にしたくなければ、もちろん電気スタンドとかでもOK。
 暗い部屋で手元だけ電球色に照らして、ってのもそれはそれで趣がある。


 それから何か、雰囲気のある音楽。
 別にアニメ見ながら飲んでも何ら悪くないし、というか私もそうすること多いけど。

 YouTubeなんかを探すと、サントリーのテレビCM集なんてのがアップされちゃってたりする。
 ちょっとこの先、結構サントリーとニッカを比べてニッカを持ち上げるようなことを繰り返すからフォローするんだけど、CMのセンスってサントリーが抜群にいいのね。
 古く「人間らしくやりたいナ」から「少し愛して、ながーく愛して」、私の知ってる頃でも「恋は遠い日の花火ではない」「女房酔わせてどうするつもり?」といった名キャッチフレーズ。
 聞けば誰でも知ってるあの「夜がくる」なんて、ウィスキーに合わせるBGMにあれほど似合うものはなかなかないね。
 そういうわけで、サントリーのCMを見ながら飲む。ニッカとか飲みづらいけど

 そうでなければ、私は中島みゆきの、ロックに走る「ご乱心の時代」よりちょっと前くらい、アルバムでいえば「予感」とか「臨月」「寒水魚」あたりで。あるいはちょっと後の、「miss M.」か。
 「生きていてもいいですか」以前だと日本酒になっちゃうな。


 酒よし、つまみよし、音楽よし、さて飲もう……という前に、ウィスキーをストレートで飲むときはチェイサーをつける。
 強い酒をひとくち飲んで、続けて冷たい水を飲んだりすると美味いのだが、その水をチェイサーという。

 ここで、ちょっといい水を用意してもいい。
 別に、日本の水道だったら水道水でもいいと思う。
 ただ、チェイサーにすると、水のほうがより一層美味しく感じるから、おいしい水がより美味しくなるチャンスでもある。
 選ぶなら、エビアンとかコントレックスみたいな硬水よりは、軟水がいい。普通ウィスキーを仕込むのは軟水だし。
 ただグレンモーレンジというウィスキーは硬水で仕込むので、硬水を合わせる。

 チェイサーは別に水に限らず、炭酸水とかでもいい。
 コーラなんて線もあるようだ。ウィスキーのコーラ割りもあるくらいだから、セパレートしても別にいいんだろう。
 それでいくと、ウィスキーのコーヒー割り(アイリッシュコーヒーまたはゲーリックコーヒーというカクテル)があるんだから、コーヒーでもいいんだろうか。試したことないや。

 チェイサーの定義上は、ウィスキーよりアルコール度数の低い飲み物ならなんでもいいらしく、つまり酒でもいい。
 ビールをチェイサーにするのはわりとポピュラー。
 どっちも同じ大麦ベースのせいか、確かに相性はいい。変なちゃんぽんみたいな悪酔いするわけでもなさそう。
 ただまあ、私はそれほど強くないから、ウィスキー一杯ビール一杯でもういっぱいいっぱいになるけどね。

 ビールのグラスの中に、ウィスキーをショットグラスごと落としちゃうと、ボイラーメーカーというカクテルになる。
 韓国でも爆弾酒とかいってやるらしいのだが、爆弾酒はそのまま一気飲みするなんて無茶なもんらしいので、真似するのはビールにウィスキーを入れるとこまで。


 ウィスキーよし、つまみよし、チェイサーよし、と揃ったところで、やっと飲む。

 ウィスキーは、口に含んだ瞬間、口の中にある間、喉を通した後と、タイミングによって引き立つ味が違う。
 一気に口の中をスルーさせちゃうより、少し口に留める時間を作るのがいい。

 別に塩なんて入れてないのに、塩味みたいに感じるものもある。
 逆に、安い日本酒みたいに加糖したりはしていないのに、甘く感じるものもある。
 なめらかに喉を通って後を引かずにすっと消えるものもあれば、口の中ではおとなしいのに喉を過ぎてから香りが立ってくるものもある。

 「マッサン」で力説していたスモーキーフレーバーというのは、燻製っぽいというか煙臭いというか、そういう風味。
 どのウィスキーでも、ゼロではない。しかし強い弱いの差は非常に大きい。
 スコットランドのアイラ島という島で作られるウィスキーは、全般にスモーキーフレーバーが強烈。
 あまりにキツいと飲みにくい……はずなんだけど、不思議なもので、日本人は意外とキツいスモーキーフレーバーが好きらしい。
 飲んだことがなければ、いちど試してみてもいいかもしれない。
 アードベッグ、カリラ、ラフロイグ、ボウモアあたりが手に入れやすいかな。
 国産品だと、ニッカウィスキーのピュアモルト・ホワイトというのが、意図的にスモーキーにしたやつ。これは安くて面白い。


 ウィスキーを飲んで、しばらく味わったら、水を飲んで洗い流す。
 アルコールで熱くなった口の中が、一気に冷えてクリアになる。
 この水がやたらと美味い。

 チェイサー無しでウィスキーだけ飲んでると、だんだん口が慣れて味がわからなくなっちゃうので、一口ごとにチェイサーでリセットするのね。


 順番が後になっちゃってるけど、どのウィスキーを買うべきか。
 まあ味については、いくつか飲んでみて、自分の好みが見極められてこないと、なかなかベストな選択には到れるものではない。

 最初のうちは、とりあえず国産品を攻めればいいと思う。
 今や日本のウィスキーは、世界も認めるレベルだから、そんな酷いハズレはない。

 ただまあ、フルボトルで1000円以下のやつは、さすがにちょっと値段なり感がある。
 国産品で2000円前後も出せば、まずハズレなんてものはない。


 男子というのは、モノにまつわるストーリーに思い入れを持つ生き物だ。いや、もちろんそういう女子がいても大歓迎なのだけど。
 そういう意味では、日本のウィスキーを起こした男たちというのが、いちいちドラマチック。
 だから、メーカーやブランドに思い入れを持つための材料がゴロゴロある。

 ニッカウィスキーの竹鶴政孝については、とりあえずいままさに「マッサン」をやってるし、本も色々出ている。最近出たのは雑な便乗本もあるかもだから、過去に書かれたものとか、マッサン本人の自伝とかに当たるといいかもしれない。

 サントリーの鳥井信治郎についても、「マッサン」で袂を分かってからの歴史がある。
 これもまた色々本があるんだけど、元々サントリーのコピーライターなどをやっていた作家・開高健が書いた「青雲の志について―鳥井信治郎伝」が面白かったな。
 時系列すらバラバラで、鳥井信治郎の一生を知ろうとするには適さないんだけど、開高健が目の前で見た鳥井信治郎という男の魅力をそれはそれは痛快に描く。

 また、ちょっとマイナーになっちゃうけど、マルスウィスキーの岩井喜一郎という人もいる。
 竹鶴政孝を摂津酒造(ドラマの住吉酒造)に入社させ、スコットランド留学に送り出し、そして伝えられたウィスキー製造法を受け取った人物。(「マッサン」にもそれらしい専務がいたけど、彼がそうだろうか?)
 本など出ているかどうかわからないんだけど、マルスウィスキーのサイトにある程度情報がある。追求するのも面白いかも。

 それから、イチローズモルトというブランドが知られる、ベンチャーウィスキーの肥土伊知郎。
 一時期、各地の日本酒蔵元でウィスキーを蒸留するのが流行った時期があった。
 東亜酒造という会社でもウィスキーの製造を行っていたのだけど、その創業者の孫として生まれたのが彼。
 ウィスキーを作りたくてサントリーに入ったのに、学歴でハネられて携われず、退社して実家の東亜酒造に入ったら経営危機で蒸溜所が売却され、売却先はウィスキーやる気なし。原酒も引き取り手がなければ捨てるぞ、と。
 しかしそこから踏ん張って、原酒を引き取ってくれる会社を見つけ、資金を集め、ウィスキーを商品化したのがイチローズモルト。
 これが世界的に高い評価を得た大逆転劇。
 それで終わらずに、ついに自らの蒸溜所を建てて製造を始めた。
 それが2008年のことだから、そろそろ新蒸溜所で作られたウィスキーが市場に出始めている。


 でまあ、脱線から帰ってくると。

 私はどっちかというと、ニッカウィスキーが贔屓。

 「マッサン」では、商売のことを考えて日本人の口に合うものをという鴨居の大将と、スモーキーフレーバーを効かせた本格的なスコッチウィスキーをというマッサンとが袂を分かつことになった。
 このへん、その方向性の差が21世紀の今でも、サントリーとニッカの間で未だに続いてる。
 ふたりとも間違っていなかったことが、今、明らかに証明されてるわけ。

 サントリーオールドを飲んだら、確かによくできた味で、昭和の時代には憧れの高級品、今は国産ウィスキーの王道、という感じがしてくる。
 どこから見ても欠点がない、誰が飲んでも美味しいといいそうな味。鴨居の大将も、これなら絶対売れるというんだろうなと。
 サントリーは商品ラインナップもすっきりしていて、価格の差はあっても、その価格なりに王道をいくようなつくりをしている。

 一方でニッカウィスキーの製品は、竹鶴とかスーパーニッカみたいな王道っぽいものでさえ、サントリーのものより少しクセがある。
 まして、何らかのコンセプトを持って作ってるウィスキーは、かなりすごい味のものがある。
 そういうコンセプチュアルなものが色々あるおかげで、製品ラインナップも、サントリーより数が多く幅が広い。

 何かこう、もしかすると年をとったら、いつもオールドだけ飲んでる、変化しないことを楽しむのがいい、みたいな境地に達するのかもしれない。居酒屋探訪家の太田和彦氏がそんなこと本に書いてた。
 しかし私はまだ若造であるからして、何が飛び出してくるかわからんようなニッカの面白さのほうに気が向いてしまうな。


 ニッカの中でも私が特に好きな一本といえば、フロム・ザ・バレル。
 ウィスキーは複数の原酒をブレンドして製品にするもんだけど、これは、一度ブレンドしてからもう一度樽詰めして熟成期間を置く、一手間かかったウィスキー。
 度数が高いこともあって、味わいがすごく重厚なの。濃いとか強いでもいいんだけど、やっぱり重厚ってのがぴったりくる。
 これが、ちょっと少なめの500mL、四角い瓶に、きちっと収まっている。
 ニッカって瓶の趣味もいいんだけど、ただの四角い瓶とシンプルなラベルが、この重厚な濃い色のウィスキーにしっくり似合う。
 ただ惜しむらくは品切れになりがちなウィスキーで、下手にネット通販とかで買ったらボられることがあるから注意。2000円ちょっとで買えちゃうもの。

 フロム・ザ・バレルは初心者向けとはいいにくいので、慣れてないうちに飲みやすいのを、ニッカから特に選ぶとしたら、今なら手に入るハイニッカかな。
 ハイニッカって安物なんだけど、ボトルで500円きっかりの値段、酒税法で定める二級ウィスキーとして許される中身、そういう限界を突き詰めて、最大限美味いものを出そうとして送り出されたウィスキーだった。昔は大ヒットした。
 マッサンは酒豪なもんで、一日一本ウィスキーを飲んでしまうような人だったらしいけど、そんなペースで愛飲していたのがハイニッカだった。

 もっとも、酒税法が変わって「税金が安くできる二級ウィスキー」というものに意味がなくなったり、全体的に安くなって、かつての高級品だったスーパーニッカでも2000円くらいまで下がったりと、状況が変わった。
 最近はハイニッカの居場所がなく、店に行ってもなかなか売っていなかった。
 それが最近、マッサン効果か、ハイニッカがまた店頭に並ぶようになった。

 今のハイニッカ、これが飲んだら、不思議に甘い。
 もちろん、安い日本酒みたいに糖分を加えるようなことはしていない。
 口当たりが柔らかくて、優しく飲みやすい。ウィスキーらしいコクや風味も、甘さとともにちゃんとあって、ただ飲みやすいだけのものでもない。
 これはたった1000円程度ってのは安い。正直、1000円のウィスキーはただストレートで飲んでも厳しいのが多いけど、ハイニッカなら十分ストレートに耐える。


 サントリーだと、やっぱりオールド。王道。
 それから、高級品ほど美味しいというわかりやすいラインナップ。

 「響」なんてさすがの完成度。まっすぐ王道を行く美味しさ。
 シングルモルトウィスキーも、「山崎」「白州」ともに美味い。
 私は白州が特に好きだな。スモーキーなのにさっぱり爽やかな味わい。ハイボールも美味しくて、なんか昼間からでも、真夏でも気持ちよく飲めちゃう。
 ただ、どちらも、「○○年」と年数表記があるやつがよかった。最近、年数表記のない廉価品が出たんだけど、なんかちょっと物足りなくて煮え切らない感じが。
 ニッカの「余市」「宮城峡」にも年数なしがあるけど、やっぱり物足りない。


 マルスウィスキーは、買える場所が限られるけど、「岩井トラディション」は美味しかった。
 なんば高島屋の洋酒売り場に、ウィスキー通の店員さんがいるんだけど、彼が褒めているのを信じて買ったらまあ、2000円って味じゃないってくらい。
 販路限定商品らしいから、何処でもは買えないのが難しいとこだけど、見つけたら買って損はない。



 舶来モノは、なにせ相手が世界なので幅が広い。
 多分海外の蒸溜所にも、それぞれ波瀾万丈の歴史があったりとかするんだと思うけど、あいにく私は調べ切らなくてよく知らない。

 私の知ってる銘柄ごとのエピソードをいくつか紹介すると、スコッチウィスキーのオールド・パー(Old Parr)。
 1873年に岩倉具視の使節団がヨーロッパから持ち帰った、日本に初めてやってきたウィスキーだという。
 昭和日本のドン・田中角栄や吉田茂も愛飲していたというほどで、昭和の頃なら目ん玉飛び出るような高級品だったんだろう。
 立花隆「田中角栄研究」を読みながらオールド・パーを傾けて角栄気分に浸る、なんてのも乙。
 未だにそこそこ値段は高いけど、やはり今でも美味しいので、味だけでも損はなし。

 それから、バーボンウィスキーのオールド・クロウ(Old Crow)は、松田優作が愛飲した。
 今となっては安いバーボンなのだけど、松田優作を引き合いに出すと、ちょっとした贈り物とかに便利だ。
 味は、まあ普通のバーボンっぽいバーボンってくらいだけど。

 優作といえば「野獣死すべし」「蘇える金狼」、といえば大薮春彦だけど、彼はシーバスリーガルだったそう。

 有名人の愛飲ウィスキーエピソード集として、「ウイスキー粋人列伝」という本が出ていて、これも面白い。

 角栄や松田優作もそうだけど、当時なら高級品でとても庶民に手が出なかったものが、今なら簡単に買えちゃう。同じものを楽しむのは簡単。(当時と味が変わってるんじゃないかというのはさておき)
 ただ、白洲次郎の真似は困難。
 友人の英国貴族がプライベートに持っているウィスキーを、樽で送ってもらって楽しんでいた、なんて話でハードル高すぎ。さすが風の男……


 他に個人的に好きな銘柄を挙げておくと、スコッチだとやっぱり、上の方で書いたアイラ島のシングルモルト。
 中でも私が好きなのは、カリラ(Caol Ila)とアードベッグ(Ardbeg)。
 ほんとにすごい味するんだけど、一度はやっておきたい。三度やってハマったら何度でも。

 私はなんというか、スコッチの場合はあまりライトなやつは好きじゃないみたい。
 完全に好き嫌いの話で、質が悪いと貶めるわけじゃないのだけど、カティーサーク(Cutty Sark)とかは、どうも物足りなくて苦手だな。

 ところが不思議なもので、私はバーボンだとライトなやつが好き。
 エンシャント・エイジ(Ancient Age)っていうのが、実にライトで気持よく飲めちゃう。
 その上級品にエンシャント・エイジ10スターというのがあって、こっちはもっと深みがあるけどやっぱり飲み心地が良い。
 エンシャント・エイジはラベルに「Ancient Age」だけだけど、10スターは「Ancient Ancient Age」と書かれているから、それぞれ2Aと3Aと呼ばれたりもする。

 あとはフォアローゼズ(Four Roses)かな。
 特にブラックラベルがいい。日本専売らしいんだけど、日本人向けの作りなんだろうか。
 ハイボールにしてもよくって、何か名前通りに薔薇の香りでもつけてるのかと思ったような、甘い香りが立ってくるの。
 私がウィスキーを色々飲んでみよう、と思うようになったきっかけのウィスキーが、フォアローゼズ・ブラックラベルだった。


 スコッチにせよバーボンにせよ、そのブランドの下から2番めの値段のやつを買うと、ハズレをつかみにくい。
 国産にもその傾向はあるんだけど、下っ端とひとつ上だと、ずいぶん違いがある感じ。
 特に下っ端が1000円ちょっとしかしないようなのは注意。あんまり美味くないの多い。
 メーカーズマークみたいに、下っ端から2000円するのは全然問題ない。メーカーズマークは定番で美味いね。

 バーボンの1000円ちょっとは、エンシャント・エイジとかジムビームみたいにいいのも多いんだけど、でもハズレはある。
 全般にバーボンは、安くて美味いのが多いから、いい銘柄を見つけられたら嬉しい。慣れてきたら探求するといい。


 また、スコットランドのスコッチ、アメリカのバーボン以外には、カナディアンウィスキーとアイリッシュウィスキー、それから日本のウィスキーを入れて5大ウィスキーなんていわれたりもする。

 その5大産地以外で、なんと南アフリカ共和国でもウィスキーの製造が行われている。
 私が知るかぎりで、ハリアー(Harrier)というのと、スリーシップス(Three Ships)というのがある。他にもあるかも。
 スリーシップスはボトルで買ったことがあるんだけど、意外に……といったら失礼だけど、まったくいい加減なもんじゃない、ちゃんとしたモノだった。聞けば1977年からの歴史があるとかで。

 他にドイツやインドでもやってるみたい。買ったことはないけど。
 タイのは、あれはちょっとウィスキーとは別のものかな……。

 珍しいものを見かけたら、試してみるのも一興ね。すごいハズレもあるだろうけど。
 一度飲んだことがある台湾ウィスキーは、ハズレというか、なんかすごかった……。



 とまあ、私以上のウィスキー通なんてなんぼでもいるのだろうけど、恥ずかしげもなく長々語ってしまった。
 なんかこう、ビールなら、銘柄と味にこだわる人くらいはいくらでもいると思うけど、それでも基本的には、誰かと語らいながら飲む酒じゃないかと思う。
 でもウィスキーの場合、ひとりで飲むことが多い酒な分、ウィスキーについて語りたくなるようなところがある。
 それはつまり、飲み始めてからの楽しみが幅広いんだろうな。