2011年2月12日土曜日

京都伏見

大阪に数年ぶりの積雪があった2月の週末、寒いから家にこもる、などということはせずに、逆に雪を見て喜び勇んで散策に出かけた。

自宅のあたりは、積雪なんて極めて稀。
世間で「氷河期が来る」と騒いでいた時代には、数年に一度くらいは軽い積雪があったものだけど、道路が真っ白になってしまうほどの量が来たのは、記憶にある限りこの30年で二度目か三度目くらい。

よって、雪を踏んで歩くと靴底にたまった雪が圧縮されて氷の塊になり、そしてコンビニに入ったらグリップ皆無な靴底がスケートもかくやというほど滑る、というような経験はほぼ初めてのことであり、すっ転んだのも私が悪いわけではない。

週末にぶらつく先は、まだ乗ったことがない鉄道に乗ってみるという目的も兼ねているので、京都行きは奈良を経由していくことにしてみた。
JR環状線から鶴橋で乗り換え、近鉄に。鶴橋から布施までは大阪線、そこから先は奈良線。
奈良線沿線は、古い街道沿いの住宅地でちょっと好きな雰囲気なのだが、そこが雪化粧されている。生駒のトンネルを超えたら雪が厚くなった。

大和西大寺駅で京都線に乗り換えて北へ。
しばらく走るとJR片町線の線路と、木津川沿いの平地が近づく。
山と山の広い隙間を真北にいくと、木津川のほうが西に曲がって、線路の下をくぐる。
そこから先は開けて、まだ田畑で余裕を残した感じの住宅地。

しかし、雪景色の中で伏見を観光するつもりでいたのに、向島あたりで気がつくと雪がすっと消えてしまった。
宇治川を渡るとすぐ伏見なので、桃山御陵前駅で下車。


駅を降りて、目の前の大手筋通りを西へ行く。
すぐ京阪電車の伏見桃山駅がある。通りすぎるとアーケード街。まだまだ寂れていない、シャッターの閉まっている店のほとんどない商店街だった。
京焼の焼き物など置いてる店をひやかしたり、さすが伏見で日本酒をおいている店に入ったり。
土産に一本、京姫酒造の「京姫 大吟醸」を購入。
京都ローカル家電量販店のタニヤマムセンの店舗があった。

アーケードが切れたところで南に折れる。
途中で竜馬通りと名乗る商店街になる。ちょっとクラシックな雰囲気。

黄桜酒造のキザクラカッパカントリーという展示施設があるので吸い込まれた。
日本でも十指に入る大手日本酒メーカーということで、入ってみるとカッパを展示していた。

まず、入ったところがギャラリー。
子供の頃の記憶に刻み込まれたカッパがアニメで動くテレビCM、あれのアーカイブをずっと流していた。当時連呼していた「黄桜 呑」は、ちょうど私が幼い頃の新製品だったんだな、と今頃確認。
清水崑や小島功の描くカッパのイラストの展示も並ぶ。

そして渡り廊下を通ってとなりの部屋に行くと、そこがカッパ資料館。
全国の河童伝説の紹介、カッパゆかりのグッズや遺物の展示、中国の河伯などカッパの由来についてまで踏み込む。
日本酒についての展示と同レベルの力を入れてカッパを扱う、という、黄桜のカッパに賭ける想いの強さを感じる施設。

併設してカッパショップという売店がある。
酒もあり、お菓子もあり、黄桜グッズ(ロゴ入りぐい呑みなど)、龍馬グッズなどもあり、というところで、枡を買ってみた。
それから、「魯山人」という酒を買ってみたが、黄桜の製品ではなく、東山酒造というところのだった。帰ってモノを見てあれ?と思ったが、使ってる水が同じだからかな。

道をわたって向かい側に、カッパではなく日本酒の展示館がある。
実際の製造工程に隣接して、使っている水を飲めたり、製造方法や日本酒の歴史や飲み方をパネル展示したり、と、オーソドックスな内容。
カンロック、なる飲み方を知って不思議に思うた。氷で満たしたグラスに熱燗ぶっこむんだと。


黄桜を離れてさらに南下すると、かの有名な寺田屋がある。
坂本龍馬が襲撃されて逃げたあの寺田屋。その数年前にあった薩摩藩士の内紛が「寺田屋騒動」といわれていて、その史跡だと指定されている。

このあたりで気がつくのだけど、この伏見では、新選組も活動していたのだけどあんまり触れられていない。全体的に龍馬贔屓な雰囲気。
寺田屋でも新選組には特に触れていない……と思ったが、そもそも寺田屋事件の襲撃者は新選組ではない、というのが今日日の説だそうで。それで新選組に触れてないのか、それとも単に壬生狼に触れたくないのかはわからんけれど。

寺田屋の周りにはカメラを構えた観光客がうじゃうじゃいて、でもなぜか入り口に向かわないでずっと溜まっている。
こういう雰囲気を見ると引き返したくなるのだけど押して入り口へ。
今でも宿泊できる旅館でもあるそうな。

入ると、まあかなり古びた木造の旅館ではあるのだけど、妙な壁紙張ってあったり、やたらと龍馬の肖像画やら、龍馬について人が語った言葉やらを展示しまくってあって、ちょっとやりすぎ感あり。
事件の時にお竜さんが入ってた風呂だとか、襲撃時の柱の刀傷だとか色々あるのだけど、そもそもこの寺田屋は事件の40年後に建てられた別物、と割れてしまってるとかで。
外から見るだけでよかったかもしれないな……。


南側の川を渡って、川沿いに南西の方へ。
長建寺、という寺がある。
門が中国風で壁が赤かったり、不思議な雰囲気がある。ジュディ・オングが山門を版画にして奉納してます、と誇らしげに看板かけているのがちょっとあれだけど。
本尊が弁財天なのもちょっと珍しいとか。
変わった祭りをやるせいで参拝者の質があんまりよくないのか、いささか張り紙がうるさいのが気になったが。

このあたりは中書島という地名なのだけど、脇坂安治に由来するとの説明があった。
脇坂安治の官職が中務少輔で、その中国名の中書が地名になったとかいう話。
賤ヶ岳七本槍の一角として有名なものの、悪魔的KY大将の福島正則に「同レベルに並べるな」といわれてしまうような人であるが、しっかり名を残している。


また川を渡って、今度は北へ。
すぐに月桂冠の大きな建物が見えてくる。
醸造所と、月桂冠大倉記念館という展示施設が合わさった施設。

入場料300円を払うと、ここでしか手に入らないらしい特選純米酒の缶(180cc)をまずくれた。
あとで聞いたところでは、採算度外視で作った宣伝用の美味しいものだという話。記念館の売店で1本300円で販売してもいる。

順路に沿って展示を見る。
あいにく醸造工程の見学は予約しないといけないそうで、ちと残念。
ここは近代化産業遺産に指定されているとかで、今はかなり機械化されている工程を手作業でやっていた頃の製法を、現物の機材を使って解説する展示をやっている。

それから、昔の月桂冠製品や広告などの紹介。
ビンのふたが小さなコップになったものを開発したおかげで、鉄道省の駅売り製品に採用されて全国区の酒になったとか。

展示をひとまわりすると、日本酒のテイスティング。
「吟醸酒 ザ・レトロ」という、上のコップ付きビンのものをリメイクした甘口のものと、1637年の創業時のブランド「玉の泉」を名付けた大吟醸生貯蔵酒、それからプラムワインの3種。
日本酒はどちらもここでだけ販売するものだとか。通販もやってるけど。
玉の泉は辛口、ザ・レトロは甘口。どちらかというとザ・レトロのほうが好きだった。
おみやげ品の販売コーナーもあって、やはり酒からお菓子、グッズなどいろいろ。


それからぶらぶら北へ歩き、アーケードに戻って駅に戻り、さらに通りすぎて御香宮神社へ。

神功皇后を主祭神に、仲哀天皇・応神天皇をともに祀る。
秀吉が伏見城を建てたときに守護神とした過去があったり、また徳川家康とも伏見城の戦いなどでゆかりがあるから境内に東照宮があったりもする。
表門は伏見城の門だという話。

境内は綺麗で大きい。敷地がやや細長いので、門から本殿まではかなり長い。
本殿はわりと最近に改修されたのか、色鮮やかに塗られている。しかし塗りたてというほど真新しくもない。
また、なんでもかんでもすべてピカピカにしてしまってるようなものでもなく、古い大絵馬などがしっかり古びて残っていたりと、感じよく綺麗な神社という雰囲気。


そして駅に戻った。

私は醸造酒を飲むと頭が痛くなることが多いのと、あまりにもたくさんありすぎてはまると泥沼だと思って日本酒を避けているのだけど、しかし名産地で見て飲んで買って、となるとやはり楽しい。
歴史ネタもいろいろあって、かなり遊べる街だった。
まだ伏見桃山城の方にはいってないから、まだ東半分に見所がまるごと残ってる形。いずれ行こう。


桃山御陵前駅から近鉄で一旦京都駅へ。
京都駅ビルなど一回りして、今度はJR奈良線に乗り込む。みやこ路快速で一気に奈良まで行き、大和路線に乗り換えて大和路快速で帰阪。

京都-奈良間の、大阪からだと微妙に使いづらい路線も乗りつぶしたところで今日の散策は終了。