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2011年4月11日月曜日

灘の酒蔵巡り

私の場合、ちょっと醸造酒は頭痛に来やすくて体質に合わないから、最近まで日本酒はほとんどやらなかった。
稀に飲んでも、そもそも選び方を知らないから、あまり良くもないものを飲んであまり美味くもないと思っていた。

しかし先日、寺田屋目当てで出かけた伏見で、月桂冠・黄桜の酒蔵を見学して、自慢の良い日本酒を飲んできたら思いの外美味しい。
普段飲んでるウィスキーだって、スーパーで買えるようなローエンド品はスカなのはスカなんだから、日本酒も同じ話かな。

江戸の昔から、日本酒といえば摂泉十二郷。
関西にいれば、日本酒の名産地は日帰りで行ける距離にいくつもあるのだから、ならば作ってるところに行って呑んでくるに如かず。


ということで、灘は魚崎・御影あたりを、友人らと共に巡ってきた。

阪神電車で魚崎駅まですいっと移動。

試飲が色々あるだろうと思うから、軽く食事してから行きたかったのだが、魚崎駅は見事なまでに住宅地で、駅前にこれといった飲食店などない。急行停車駅なのだが……。


とりあえず、南の海側に歩いて行って、一番近い櫻正宗記念館 櫻宴へ。

伊丹で醸造を始めたのが1625年、創業したのが1717年という大老舗であるという。
◯◯正宗、という酒はそこらじゅうにあるのだけど、「臨済正宗」(正統派の臨済禅を伝えるという意味で、今の黄檗宗がそう名乗っていた)の「セイシュウ」が「清酒」と通じるからというのが元ネタとか。
江戸時代に「正宗」がたくさんできちゃったので、ここの正宗は明治に商標登録するときに櫻を付けて今に至るとのこと。

櫻宴は二階建てで、1階にカフェと売店、2階に古い酒造設備や酒器、当時の看板などの展示とレストランがある。
名前通り、周りは桜の植樹が多くて雰囲気よい。

展示はまあ、正直わりとどこの酒蔵でも似たようなものになりがちなところがあるけど、スペースの小さい櫻正宗は安直に勝負するとしょぼいだけになりかねない。
そこで、1904年のパナマ運河開通記念博覧会(サンフランシスコで開催)でグランプリを取ったときの記録やら、未開封の古い製品の展示やら、織部焼のぐい呑みやら、少し変わったものがあった。
多分冷ましに使ってたのかと思うけど、どう見てもエンジンで動くとしか思えない扇風機なんてのも。

売店で、「特別純米 宮水の華」の試飲。
ここらの日本酒を銘酒たらしめている「宮水」を発見したのが、この櫻正宗の人であるそうで。
宮水の華と、多分櫻正宗の最高級酒「純米大吟醸 荒牧屋太左衛門」が、一合or 300ccで量り売りに出ていた。荒牧屋太左衛門は一合1000円以上の貫禄。

売り物を見ていると、「花雫 あか」というなにやら赤い酒があって、何かと思えば赤米で醸造した物という。
ちょっと変わってるので、300cc瓶を購入。

それからカフェで軽くスパゲティなど入れる。これは別に特別なものではなし。


そこから南東に少し行くと、浜福鶴吟醸工房がある。
建物前に井戸があるが、阪神大震災のときに液状化で使えなくなったそう。かつては瓶を洗うのに使っていたらしいのだけど。

ここは、ガラス張りで工場内を見学できる施設。歴史的なやり方を見せるところは多いけど、工場そのものを常時見学させてるのが他との違い。
もろみの香りを放出する装置があったが、そのスイッチを押した途端にブシューと豪快に吹いて、同行していた友人が吹き飛んでいた。

見学後にそのまま物販コーナーへ。
例によって試飲がくるのだけど、係のおっちゃんがなんか気前がいいというか、あれこれ喋りながらこっちが飲み終わるのを待ち構えつつ次々注いで、わんこ酒状態に。
ちょっと記憶が怪しいけど、「純米大吟醸 雄町しずく」「大吟醸 六甲の雫」「大吟醸 浜福鶴」「柚日和」「リムーザン」「はちみつ檸檬日和」「微発泡にごり酒 蔵出し生にごり」の7つだったと思う。

チャレンジ精神豊かな酒蔵のようで、風変わりな酒も色々。
普通の日本酒三種もいずれもいい味と思ったけれど、変わったものの印象が強い。
「蔵出し生にごり」は、微発泡で素晴らしく飲みやすく爽やかな味で、これはもう置いてたら絶対飲み過ぎる。
「柚日和」「はちみつ檸檬日和」もジュース感覚で飲めてしまうほどの飲み口。

で、私は「リムーザン」を購入したが、これは醸造して絞ったあとに、リムーザン・オークのブランデー樽に詰めて5年熟成させたもので、樽の香りと味がしっかり移っている。
度数も25度と高めなのだけど、味はかなり甘いほう。日本酒度でいうと+15とか超辛口になってるけど、蒸留酒と比べりゃすごく甘い。



次に西へとまっすぐ歩いて行くと、住吉川にぶつかるのでそれを渡る。
渡ってすぐ、菊正宗酒造記念館

酒器コレクションから。
菊正宗も創業1659年の超老舗で、今は造りという製法にこだわりがある。
酒造記念館は、国の重要有形民俗文化財に指定されている灘の酒造用具を収蔵・展示してある。かつて阪神大震災で建物が倒壊したものの、幸いほとんど救出できて、今また建て替えられた建物で展示されている。
展示施設の立派さでは他所より頭ひとつ抜けてる感。
立ち入り禁止だけど、窓から文化財保管庫を覗けたりもする。
文化財保管庫

菊正宗は辛口が売りで、試飲で出ていた原酒は実に辛かった。それを加水して瓶詰めしたもの(銘柄忘れちゃった)も飲み比べたけど、飲みやすくはあるけどやはり辛口。
生酛造りは雑味が出にくい澄んだ味になるというような話だけど、しかし言い方によっては一本調子にも感じるかなー、というとこもあり、私は日本酒だと甘口好きかもしれない。



そこから少し距離があるが、西に白鶴酒造資料館がある。
2006年の時点では、日本一のシェアを持つメーカーは白鶴であるそうだ。

近づくに連れて妙に活気あふれる雰囲気があると思いきや、ちょうど震災チャリティイベントを開催していた。
酒造についてのクイズを配られて、半分くらいは答え分かるけど知らないと答えられない問題もあったので、解答用紙片手に見学モードへ。

工場見学がちょうどすぐに入れそうなので参加。
見学直前に、宮水としぼりたての原酒の試飲。これも割と辛い感じだったけど、辛いだけでなく色々味が入ってる感じで、今回試飲した正統派の日本酒ではコレが好きだった。
それから醪を試食してみたりも。

工場は、あいにく土日は稼動させないそうで、休止中の施設を社員さんの解説とともに回る。
日産70000リットルというから大したものだけど、しかし回ってみると意外とコンパクト。
ウィスキーの蒸溜所は、壮大な蒸留器とぎっしり並ぶ熟成庫のようなスケールのでかい見物があるけれど、日本酒だとそうなってしまわないのがテクノロジーであろうか。

続いて資料館の方は、菊正宗に負けられないという勢いで、伝統的酒造設備の展示。
職人さんの異様にリアルな等身大フィギュアがそこここにあるのが面白い。

物販コーナーはやたらと立派。
チャリティー有料試飲といって、最後の絞り工程で、力をかけて絞り出さずに自重落下に任せてゆっくり絞る「袋吊り」の大吟醸を出していた。一杯200円でぐい呑み付き。

無料試飲でも、みぞれ酒の実演なんてやっている。
氷点下まで冷やした日本酒(冷やしただけでは凍らない)とグラスを用意して、酒を注ぐと、冷たいものにぶつかるショックで凍結が始まってみぞれ状になるというあれ。
きんきんに冷えてるのでするっと入ってしまう。これはこれで爽やかでいいけど、味が感じられなくなるから、あまりいい酒でやるともったいないかも。

ここで、家のお土産に「御影BAUM」を購入。
バームクーヘンなのだけど、白鶴の酒粕と「超特撰純米大吟醸 翔雲」を練りこんだもの。
1300円といい値段だったけれど、食べると甘酒のような甘みがして美味しい。

一回りして、クイズの答えを返すと「白鶴まる」の紙パックをひとつくれた。嗚呼大衆酒。



まだ西に数件あるのだけど、ここまでの試飲だけでかなり呑んでしまっているので、みないい気分のうちに帰路へ。
阪神の住吉駅に歩いて行って、帰阪。

これだけ楽しんであれこれ呑ませてもらって、入場料などが必要な施設はひとつもない。
もちろんただ酒といわず、商品を買って返すのが礼ってものだけれど、コストパフォーマンスは実にいい。


いわゆる「灘五郷」のうち、今回回ったのが魚崎・御影郷。
御影郷は西に離れたところにもいくつか施設があり、ドラマ「甘辛しゃん」のロケ地でもあるらしい、木村酒造の「瀧鯉蔵元倶楽部 酒匠館」や、神戸酒心館(「福寿」の醸造元)がある。

あとは西側に西郷。沢の鶴の資料館がある。
それから東に離れて西宮郷。日本盛、白鹿、白鷹がある。西宮はまた機会を見つけて行ってみたいところ。
その東隣が今津郷。ワンカップの大関があるけれど、ここは展示施設などはなし。