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2014年9月21日日曜日

私史・2000年前後のPCゲームブーム

最近、20歳くらいの若い子らと知り合う機会を得た。
それでオタ話していると、今から15年くらい前のPCゲーム、まあ単刀直入にいえばエロゲーブームの話をすると、意外に食い付きがよい。


なんで面白がるのか、正確にわかるわけじゃないけれども、あえて推察すれば、「自分たちが関われるほんの数年くらい前に全盛期があって、現在は下火の姿しか残っていない」というのは、興味深いのかもしれない。
Windows 95くらいからPCに入った我々世代にとっての、パソコン通信に対する感覚に近いんじゃなかろうか。
一応私も、28800bpsのモデムで電話して掲示板巡回とか、やったことはあるんだけど、本当にインターネットに急激に切り替わる間際のごく末端しか知らず、楽しい部分にはほとんど関与できなかった。
あそこには本当は何があったんだろう、とは今でも知らないままだし、たまに年上の人の昔話を聞くと興味深い。

話して面白がられるなら、blogに書いても面白がる人がいるかもしれない。
ので、ちょっと昔話と、あの頃の名作傑作というものがあればリストアップして……とか、あれこれ書いてみた。ずいぶん長くなってしまったけれども。


一応前提として、私は別にエロゲーブーム全体をよく俯瞰していたりはしないし、できないし、少しでもそうしようと努力する気もない。
せいぜい2003年くらいまでしか遊んでいないし、その頃でさえ、Leafの作品と、あとは周囲の友人らがプレイしているものを少しチェックする程度で、視野は狭い。2003年以後となると、本当に気に入っていたいくつかのブランドしか知らない。
よって、いろいろ雰囲気を見間違えているところも多いだろうけれど、しかしまあ、別に思い出話が偏っててはいかんという法もない。私がそう思うならそうなんだろう、私の中ではな。

せっかくなので、あの頃のゲームを今でもプレイする手段があるかどうかも、軽く調べてみた。
おすすめのゲームについては、わかったかぎりで、現在のプレイ手段を併記している。
主に、DMMのダウンロード販売で検索してみて、なかったら他のところも少し、くらいの雑な調査だけど参考まで。


「同級生」ブームとちょっと前史

さて、エロゲーというのは、それこそ8bit・16bitパソコンの時代から存在する。
私も80年代には、親のPC-9801VM2で、家にあった「団地妻の誘惑」とか「ザ・ナイトライフ」とか起動したことはあった。小学生の私には、どうプレイすればいいのかさっぱりわからんような代物だったけれど。
(80年代に家にPC-98があった、というと裕福な家のようだが、なんのことはない、大人げない父親が大人気なくボーナスを勝手に使い込んで購入しただけ。色々事情があって、うちはむしろ平均より貧しい

このPC-9801VM2は16色カラーボードが増設されておらず(なんのことかわからない人はお父さんに聞いてみよう)、ゲームは動かないか、動いても色がサイケに化けてどうにもならない。
遊べるゲームといったら、三国志IIとか信長の野望・戦国群雄伝みたいな、当時としても旧作ばかり。
そんな世代のエロゲーなら動くだろうけど、何があるかもよく知らず、知る情報源もなく、知ったところででんでんタウンに中古をあさりに行くのはコストもリスクも子供には大きすぎ、全然魅力を感じない。
パソコンは新品フルセットで軽自動車買えるような値段だったから、すぐ買い替えたりもできない。自分で買うなんて話にもならない。

現代のようにネットで情報を集めたりできる時代ではないし、同じ趣味の友人も居ない、というか学校にそんな趣味の持ち主がいない。都心ならMSX触ってた子がいたりしたかもしれないけど、田舎の漁師町では……
中学生だった90年代前半までは、たったひとりで、こつこつBASICのプログラミングを勉強したり、一太郎Ver.3でカセットテープのインデックスを感熱紙に打ち出したりしていた。マジメ!

その頃の唯一の外部への窓は、パソコン雑誌だった。
最初はI/O(今とは似ても似つかない、硬派な技術ネタばかりの雑誌だった)とマイコンBASICマガジン。中学に上がって少し小遣いが増えてから、ログインコンプティークも読むようになった。
そうすると、多少なりともPCゲームの情報が入るようになった。
プリンセスメーカー2が大人気で、コンプティークやログインが1年くらいの長きにわたってずっと記事を載せ続けていた記憶があるから、これが93~94年くらいか。
当時コンプティークには「福袋」といって、エロゲーの画面写真入り紹介を袋とじにしたページがあったので、エロゲーに関してはこれが最大の情報源だった。
あとは、ログインのモノクロページにもエロゲー扱うページができたりしたっけな。モノクロページの偏った連載がやたらと面白かった時代。「Wizでござるよ」に「勝鬨をあげろ」に。


で、この頃(私が高校に上がる頃、大体95年くらい)世間では、1992年にエルフから発売された「同級生」が大ブームになっていた。
雑誌経由でも情報が入ってくるし、セックスシーンをカットして家庭用ゲーム機に移植されたりして、どんどん広まっていった。
当時の時間感覚なので、92年のPCゲームが、95年とか96年にPCエンジンやセガサターンに移植されてるのは特に不思議ではない。同じようなものが何十作とある今のような時代ではないから、1作品の、しかもパイオニア的な作品の寿命は長い。
最終的には10万本のセールスがあったとか。

私も、ちゃんとプレイした初めてのエロゲーは、18禁でない家庭用版だったことにしておくけど、この「同級生」だった。
ブームを雑誌で知って、実際に手に入れられるようになったのは、家庭用が出る95~6年くらいにはなっていたはずならざるをえなかった。PC版発売からはかなり遅いが、ブーム自体が長期化していたから、さほど乗り遅れ感はない。
その頃には、なんとか自分が専用で使えるPC、富士通FM-TOWNS II HRを確保できて、セガサターンをお年玉叩いて買って、好きなゲーム遊べる環境になってもいて。

なお、家庭用ゲームに「ときめきメモリアル」が現れるのは94年から。当初PCエンジンでの発売で、プレステ・サターンに移植される95~96年になってブレイクした。
私が同級生を知るのも、周囲にメモラーが大増殖するのも、ほぼ同時期だったことになる。
さらにいえば、ちょうどエヴァンゲリオンが放送され、大ブレイクしていた時期でもある。
もっといえば、スト2以来のアーケード格闘ゲームブームも、絶頂期といっていいほどの盛り上がり。
高校生くらいでこれだけ娯楽に恵まれた世代が、後に就職氷河期にぶちあたってロスジェネ呼ばわりされることになるのだが。


「同級生」とはいかなるゲームなりや、といえば、後のゲームとそう大きくは違わず、何人もいるヒロインの誰かを選んで、繰り返し会って話してストーリーを進めて、エンディングまで読む。
一応、純然たるノベルゲームにはまだなっていなくて、会話の選択肢を選ぶだけではなかった。
RPGみたいに街マップの中で主人公を動かして、学校なり薬局なり自宅なりに移動して、ヒロインと出会える場所を探して歩きまわる。
行動すると時間が過ぎ、時にお金が減るから、考えて行動しなくちゃいけないゲームシステムはあった。
後のゲームではもっと簡略化された形になっていくが、原型的なものだった。

後に、エロゲーのシナリオに感動して号泣する人が大勢現れる時代が来るのだけど、そういうのは「同級生」の頃からあって、田中美沙シナリオの評価が高かった。
というか、そもそもキャラごとに十分読み物として成立するようなシナリオが付与されてるのが、当時としては斬新だったらしい。私はこれ以前を知らないから、伝聞でしかないけど。

ヒロインも10人以上と、量的にも充実していた。
「同級生」というタイトルだけど、別にヒロインは同級生に限らず、教師だったり、学校とは関係ない立場のキャラも多い。
ずっと後輩キャラもいたと勘違いしていたけど、学生のキャラはみな同い年の同級生だったようだ。そこはタイトル準拠といえるかも。

私の回りでは、まあ田中美沙か斉藤亜子かという人気だったかな。
田中美沙は爽やかなスポーツ少女で、結構まっすぐ人気でそうなキャラなのだけど、斉藤亜子というのはなんというか、歳上だけど生真面目で非常に初心という、ウケるのはわかるけど微かにマニアックなキャラだった。
私は黒川さとみがお気に入りだった。腐れ縁でやや男友達みたいに付き合う幼なじみキャラ、という今でも変わらぬ趣味がこの頃からある。結構こういうの年食っても変わらんね。

ストーリーにせよキャラにせよ、今でもそのまま通じる部分も多いだろうし、今でもあるけど形が変わっている要素に、20年前はこうだったのかと興味深く思える部分も多いと思う。
今見るとびっくりするような部分も、やっぱりある。

一番違うのは、主人公以外の男性キャラ。
最終的にその脇役の男性キャラが、ヒロインの誰かとくっつく展開になったりする。そうなるということは、そのプレイでそのヒロインを攻略してないんだから、寝取られというのとは違うけど。
開始段階ですでに、他の男性キャラと付き合ってて肉体関係もあるヒロインがいたりして、その場合主人公が寝取る話が展開される。
今なら炎上しかねないことだが、当時は別にそういうもんだと思われていた。

それとシステム面では、めんどくさいセックスシーン。
画面に表示されてる女の子の身体各部位を何度もクリックして前戯して、ひと通り前戯が終わるとマウスカーソルの形状がキノコ型になって挿入シーンへ……というなんともいえない手順。
もちろんスキップできない。クリックすべきポイントを見落として前戯が終わらず、ずっとハマったりしがち。
当時はこういう感じのものが「インタラクティブ」とかいって、コンピューターの新しい使い方として珍重されていたんだけれども。あれは中身の無いバズワードだったな……
ところで先日発売した「バレットガールズ」、これの尋問特訓をやって「同級生」を思い出しちゃったが、同じようなことやっても片やバカゲー、片や歴史的名作なんだから時代は残酷だ。


驚いたが、「同級生」はDMMのダウンロード販売で購入し、今でもプレイできるようだ。
しかも、当時のシナリオそのままで、グラフィックだけ手直ししたものと、後に出た新シナリオ・フルボイスのリメイク版と、どちらも用意されている。
私はオリジナル版しかやったことないので、上の話はすべてオリジナル版に基づく。

それから、今では当たり前のものだけど、当時としては多分珍しくノベライズが出ていた。
これが後に「まほろまてぃっく」の原作をやる中山文十郎の手で、全3巻くの大著。エロゲーのノベライズなんてものにあまり期待もしてないところに、意外な出来の良さだったのが記憶に残っている。



大ヒット作にはつきものの続編、「同級生2」もリリースされた。
PC版は95年発売で、ちょうど前作の家庭用版やときメモが出る頃に発売されている。家庭用への移植は97年ごろ。
こちらも、今でもDMMからダウンロード販売されている。

幸いにもこれはよくできた続編で、引き続きヒットした。
後に、エロゲーのシナリオに感動して号泣する人が大勢現れる時代が来るのだけど、「同級生2」の杉本桜子シナリオは、前回の田中美沙以上に大勢のプレイヤーを泣かせた。
今から思えば直球の病弱ヒロインものの話なのだけど、当時はみんなスレてなかったから。

内容的には素直な続編で、ほぼ同じシステムでありつつ、前作の違和感があるところをよく潰してある。
前回は、主人公が高校らしい学校の生徒なのにキャバ嬢がヒロインにいるとか、そういう不自然さがあったけれど、今回は少なくとも、知り合うこと自体が不自然というような人物はいない。
前回はストーリーフラグの管理が簡単で、5股や6股かけて同時にクリア条件を満たしておくようなプレイが簡単にできちゃったが、今回は難しく、普通には1プレイ1ヒロインになった。

キャラの中では、やはり王道妹キャラの鳴沢唯の人気が高かった記憶があるが、私は永島久美子が記憶に残る。
旅行先の旅館の娘さんなのだけど、田舎の子であることをネタにしてギャグみたいなキャラ付けされてる子で、今で言えば「アホの子」。パタリロみたいな顔で笑うのが印象的。

この頃、電気街などのゲームセンターに「ポスタードリーム」という、1回100~300円くらいでポスターが一枚、筒に入って出てくるやつがあった。(オタクがリュックに筒差してるイメージはこれのせいかも)
これに同級生シリーズのポスターが入った時は人気になったんだけど、不思議なことに、私がやるとひたすら都筑こずえが出る。5回やって4回こずえとか。
この都筑こずえというのがまた、なんだろう、狙いとしては後輩キャラだったと思うんだけど、今の後輩キャラとは全然違う。うざいとでもいってしまう他なくて、それも那珂ちゃんとか矢澤にこのような、愛嬌かネタに転嫁されるものでもない。
ゲームでもつきまとうかのように絡んでくるのに、ポスタードリームでまで絡みつかれて、なんだか呪われてるような気になったものだ。


90年代MS-DOSゲームの時代

「同級生1・2」を含む1995年以前のゲームは、PC-9801のMS-DOS上で動くものがほとんどで、余裕があればFM-TOWNSなど他のパソコンにも移植される、という調子だった。
PC-9801は、90年代なかばまで国内PCシェアの大部分を占めていた、NECの国産独自規格PC。当時はパソコンといえばPC-98。他に、富士通のFM-TOWNS、SHARPのX68000があってやはり独自規格。ゲームメーカーは各PCごとにプログラムを作りなおしていた)
95年以降もしばらく、まずPC-98 DOS版があり、余裕があればWindows 95版も出る、という調子。
その後どんどんWindows開発が主流になって、PC-98が消えていく。98年にはほぼ入れ替わってたかな。

PC-98 DOS時代には、画面に同時に表示できる色の数が16色まで、という制限があった。
たった16色では絵を描くには足りないから、違う色を交互に市松模様に並べることで中間の色を作る、というような、涙ぐましい技術があった。ほぼ職人技の世界。
今なら輪郭線がアンチエイリアス処理されるのも当たり前だけど、当時はそれを手作業でやった。角が出るところにグレーとかブラウンを手で入れる。
もちろん、ある程度自動化するソフトウェアがあったんだろうとは思うけれど……。
こういう技術は、老舗の大手メーカーでもイマイチなところはイマイチ。単色でぺたっと塗ってしまうから人の肌が鉄板みたい、線も無処理でガタガタ、なんてところもあった。

そういう時代に絵の技術が高かったブランドというと、好みは大いにあるだろうけど、やはりカクテル・ソフトが良かったと思う。
カクテル・ソフトは16色で塗る技術も高い上に、後にみつみ美里とともに人気者になっていく甘露樹がいたので、絵の質が高かった。
人気作「Pia☆Carrotへようこそ!」も、初代はPC-98 DOSから出た。これもWindows版がDMMで販売されていて、サンプルを見る限り、当時の16色グラフィックのまま収録されているようだ。PC-98 DOS時代の絵というものを知りたければ、これがいいサンプルになる。
カクテル・ソフトは後に、同じ会社の別ブランドであるフェアリーテールと合流する形で、現在のF&Cになる。


あとは、静止画でさえ16色しか使えないようなプアなパソコンで、果敢にアニメーションに挑戦する例も多くあった。
95年前後に現れてきて、ソニアの「VIPER」シリーズは人気が高かった。
現在も稀にゲームをリリースするJerryfishも、当時は海月製作所という名前で、98年というPC-98 DOSがほぼ終わりかけている時代に、「ラブ・エスカレーター」というアニメーション作品をリリースして人気を博した。

アニメに限らず、昔は技術力を振るうメーカーも少なくなかった。エロゲーが技術的に簡単な紙芝居的読み物に収束するのは、Windowsに移行してからもう少し後になる。
PC-98で格闘ゲームを作っちゃう、なんて事例もあって、これは戯画の「ヴァリアブル・ジオ」がヒットし、後にプレイステーションなどにも展開した。
これも何がすごいかわからないかもしれないが、当時のPC-98のグラフィック機能は、85年ごろに事務や製図を想定して設計されたもので、ゲーム用としてはファミコンにも劣る貧弱さだった。それをどうにかする技術力があってこその仕事。
もう少し動きの少ないゲーム、2D RPGとか3DダンジョンRPG、戦術シミュレーションゲームとか、そういうものをエロゲーにする事例は数え切れないほどあった。


この頃、というかもっと前から、アリスソフトはずっと業界の王者として君臨していた。「東のエルフ、西のアリス」とかいってたくらいで。
「Rance」とか「闘神都市」とか、DOSから続くシリーズもある。
ちゃんと歴史として振り返るなら、アリスソフトは無視するほうがおかしいんだけれども、私はどうしても肌に合わなくてほとんどプレイしていない。よって、ここではスルー。
絵もプログラムも内容もしっかりしてる、ということはわかってるんだけど。


PC-98 DOS時代の他のヒット作としては、シーズウェアの「EVE burst error」「DESIRE」なんかも後々まで引きずった人が多い作品。DMMでDL販売あり。
同じ菅野ひろゆきの作品で「この世の果てで恋を唄う少女YU-NO」も含めて3部作といわれているが、あいにくこれは権利の関係か、DL販売がない。

あとは「レッスルエンジェルス」は私は好きだったんだけど、これはそうムーブメントを起こしたような作品ではないようなあるような、どうだろう。
まさか2008年にもなってPS2でリメイクされるとは思わなかったが、とはいえ旧作はDL販売などもない。

それから友人に聞いてみると、アボガドパワーズの「黒の断章」「Esの方程式」も外せない、と。クトゥルフ神話をベースにしたサスペンス・ホラー。
後に、ビルの水道管が破裂して会社が水没するとか、酷い不幸に見舞われ続けたメーカーだったけれど、昔から作品の評価は高いところだった。今年ついに復活を宣言して、今後どうなっていくだろうか。
アボガドパワーズ旧作品も、DMMでDL販売あり。 


WindowsとLeafビジュアルノベル

さて、「同級生2」まではWindows以前の、MS-DOSのゲームだった。
しかし、95年のWindows 95発売とともに、OSが大きく地殻変動していく。
乗っかるべき地面が変化するなら、上に乗るゲームもまた変革を迎える。

当初は、MS-DOSで作ったゲームを、ただWindows上で動くようにしただけのものが多かった。
しかし1997年、Windows 95専用のゲームとして「To Heart」が現れた。
(発売順としては「雫」「痕」が先なんだけど、私くらいの世代だと「To Heart」を先にやってから遡行して旧作に触れることが多かったように思う。私もそうだったので)

OSがWindowsに変わることで、プログラムが利用できるコンピュータの機能が大きく広がった。
そして「To Heart」は、その広がった機能をごく素直に取り入れた作品でもあった。

今まで、たった16色しかない色を必死で使いこなしていたのが、一気に1677万色を自由に使えるようになった。(当時はその色数では処理が遅くなりがちで、65536色や256色に減らして使っていたケースが多かったけれど)
ので、「To Heart」は256色使って、大きくグラフィックの質を高めた。
今まで、BGMは主にFM音源という、スーパーファミコンなどでも使ってるようなやつで、しかも大抵はPCにFM音源ボードを追加しなくちゃならず、音ナシでプレイしていた人も多かった。
そこで「To Heart」は、当時当たり前になってきていたCD-ROMドライブを前提に、CDの音楽トラックをBGMにした。おかげで、BGMも大幅に豊かになった。
(今ならMP3的な圧縮音楽データを再生するのが当然なんだけど、この頃のPCでは再生に要する処理が重くて厳しかった。それに、CD-ROMのごく一部しか使わない程度のデータ量だったから、音声トラックを何十分も確保できた
CD再生にものをいわせて、BGMだけでなく、ボーカル入り主題歌を入れてしまったのも、当時としては斬新だった。
録音した音をそのまま再生できるPCM音源も使えるようになっていたから、「To Heart」ではサウンドエフェクトも充実した。「To Heart」はまだボイスなしだけど、これが後には音声入りゲームとなっていく。

後に、エロゲーが紙芝居的なノベルゲームばかりになるのも、Windowsによって利用可能になった機能がそのままノベルゲームの絵・音・音声・音楽を充足したから、という面がある。
当時のMS-DOSで作ってWindowsに移植したゲームでは、グラフィックも16色のまま、BGMはMIDI音源のまま(FM音源の他にも、外付けで利用する高価な音源があった)、SEもないまま、と、特にWindowsの機能を活かしていないベタ移植も少なくなかった。
最初からWindows用として制作された「To Heart」は、新しい時代の水準で作られたゲームでもある。


そして「To Heart」は、ことさら「読み物」であることに重きを置いた作品でもあった。
これまでのゲームはほとんどすべて、画面の上部にグラフィックを表示し、画面下部に文章を表示するウィンドウを置く、という形が多かった。
そこに、スーパーファミコンの「弟切草」などの、画面全体を使って文章を表示するサウンドノベル形式を取り入れた。(Leafの用語ではビジュアルノベル)
画面上で主役なのは、文章だった。
既読スキップとかバックログとか、そういう機能も当然備えている。

それだけ読ませようとしたシステムの上に、シナリオを書いたのが高橋龍也。
現在も、アイマスを始めとして多くのアニメの脚本をやっているあの人。
それともうひとり、青紫(竹林明秀)という人とふたりでやっていた。

この後、エロゲーがシナリオを読ませる作品ばかりになるのも、これだけ読み物であろうとした「To Heart」が大ヒットした影響は大きい。


さらにいえば、この頃には徐々に、個人のインターネット利用が始まっていた。
まだ通信速度は56Kbpsとか64Kbpsとかで(MじゃなくてK)、画像1枚ですら上からじわじわ表示されてくるのを分単位で待つような代物だったけど、ともかくもアーリーアダプターが集まってきていた。
そしてコミュニティが随所に生まれ、「To Heart」やLeafのファンコミュニティが大規模に形成されていった。
こういう時代に乗っかっちゃったのも、人気の要因のひとつだろう。

PC技術とネット技術の時代をキャッチできる偶然がいくつも重なりあって、しかも内容が面白かったためにブレイクした「To Heart」ブーム。
90年代後半、PCゲーマー層を代表する萌えキャラは、HMX-12マルチになった。
読ませるシナリオを読ませる形で見せつける作品だったがゆえに、エロゲーのシナリオに感動して号泣する人が大勢現れた。
また当時、エヴァンゲリオンについてやけに難しい言葉を振り回して大層に語るアニメファンがいたように、「To Heart」についてやたらと高尚な感じの議論を交わす人たちもいた。シナリオの批評やら、ロボットに心はありえるのか、とかそんなSFテーマとか。
他にも色々……しかしこのへんあまり掘り出すと、30代後半から40代前半くらいの人が爆発する危険があるから、若い子は触れないように。人には誰しも若い頃があるのだ。

さらに「To Heart」のフォロアー作品も続々と現れてきて、これが21世紀にかけてのノベル系エロゲーブームへと広がっていく。


旧作「雫」「痕」は、学園恋愛ものの「To Heart」と違って、伝奇ホラーものだった。
キャラを攻略していくタイプの「To Heart」とは違って、ひとつの事件に対する大きな物語があって、それがヒロインごとに切り口が変わるという形式で、ひとつの読み物としてはこちらのほうが面白いと思う人も多い。
「雫」は、もう少し後に流行るセカイ系とか電波系ヒロインを先取りしていたようなところがあるし、「痕」は未だにコミカライズをやってるくらい根強い人気がある。
「To Heart」のブームは、リーフ・ビジュアルノベルシリーズとされていたこの3作をひっくるめてのブームだった。

私は「雫」が好きで、かなり後まで年に一度「雫」を再プレイする習慣があった。
私にとっての中二病とかセカイ系とか、そういう欲求は大体すべて「雫」と、後に出会う「腐り姫」で充足されていた。
単に作品として比較したら他に良い物もあるんだろうけど、出会うタイミングが良かった作品はずっと最高のものになってしまうものでね。


現在これらを再プレイするのは、意外に難しそう。
「雫」は、DMMでダウンロード版があるので問題ない。ボイス入りのリメイク版のようだし、絵の雰囲気は塗りなおしでだいぶ変わってはいるけど、一応同じ原画のようだ。
しかし「痕」は、旧作に盗作問題などのトラブルがあったせいか、同じくダウンロード版があるものの、原画から総入れ替えしたリメイク版しかない。
我々の知ってる「痕」はこんなゼロ年代の絵じゃない、という思いはどうしてもある。老害の難癖みたいだけれど、まあこれは昔話の記事であるからして、正直に老害しておく。
「To Heart」に至っては、どうやら未だに現行商品扱いのようだ。ちゃんと出荷されて店頭にあるのか、Windows 8なんかで動くのか、どうだろう。


Tactics・Key

大ヒット作にはフォロアーが現れるのが世の常。
特に代表的なフォロアーは、Keyの「Kanon」と、そのメンバーがTacticsというブランドにいた時代にリリースした「ONE ~輝く季節へ~」だろう。(便宜上どちらもKey作品と呼ぶ)

もっとも、私は時代をLeaf基準で見てる節があるので、Keyはフォロアーだと捉えている。
しかしKeyスタッフは「ONE」以前から、かなりシナリオに凝ったゲームをリリースしていたから、別にLeafの後追いをしようとしたものではない、と見るほうが歴史的に正しいかも。
読み物的なノベルゲームが技術的にWindowsに沿っている、とは前述の通りで、だとすればこの時期に自然発生してくるものでもある。

世間的には「葉鍵系」などと呼ばれていたように、ひとつの固まったブームと見る場合も多い。私だって、文脈によっては一緒くたにしちゃう。
一応当時の感覚としては、概ねファンは重なっているのだけど、少しだけずれる部分もあった。年齢で見ても、私の知ってるLeafファンは多くが同い年か年上だったけど、Keyファンは年下が多かった。


ともあれ、「エロゲーに感動して号泣する人」というのを、おそらく狙って発生させるようになったのはKey系作品だった。

「ONE」は、「えいえんのせかい」という独特の設定を置いて話を回す、癖のある作品で、ピンと来た人への求心力がものすごく強かった。SFというのでもなく、なんだろう。
私は面白いとは思ったけどそこまでハマった方でもないので、これはハマった人の話を聞いたほうがいいかと思う。
書籍では、現ラノベ作家の本田透がかつて出した新書「萌える男」に、「ONE」について語ってるページがあった。


はっきりと泣かせにきてるゲームだったのが「Kanon」。
なんかこう、前半で散々日常系の萌えるエピソードを繰り返しておいて、最後に無理矢理ふたりが引き剥がされるような事件があってそこで泣かせて、そして最後はなんとか繋ぎ止められて大団円、という調子。
こう書くと嫌いだったかのようだけど、なに、当時釣られたから悔しかっただけのことである。
他はまだしも真琴はずるい。うん。当時、沢渡真琴に入れあげてしまう病気を、狐の媒介する病気に引っ掛けてマコピコックスといっていた。

この泣かせ構造自体は「ONE」にもあるんだけれど、「ONE」をこの視点で見ると、「えいえんのせかい」は最後の悲劇を起こすためのご都合主義的装置だと解釈されてしまうので、ちょっと読みが浅くなるかもしれない。
うん、読みが浅くなる、などということを気にしてシナリオを解読しようとしてたのが、この時代の葉鍵ファンの正しい態度だ。


この頃の葉鍵ブームには、「Kanon」の次作「AIR」も含めるのが普通だろうが、あいにく私は「AIR」やらずじまいだったので割愛。

さらにその次の「CLANNAD」は、延期に延期を重ねた。
当時の期待作だった「SNOW」「マブラヴ」「CLANNAD」が、3作も揃って延期し続け、果たしてどれがちゃんと発売されるのか、などとネタにされて笑われる有り様で。
「AIR」が2000年で、「CLANNAD」は2004年。ブーム期に4年もあけたら、もう時代の雰囲気が変わってしまうし、私自身は食指も動かなかった。
しかし、もうこれだけ遅れちゃどうにもならないだろう、という私の予想をよそに、ちゃんと新しい世代を取り込んでファンの地盤を固め直したから大したものだ。


Keyの旧作を今プレイするなら、「Kanon」「AIR」は動作環境を更新しつつ現行商品のようだ。
ぶっちゃけこれのセックスシーンなんてどうでもいいので(エロゲーなのにエロがどうでもいい、という方向性の走りでもあった)、全年齢版でも構わない。

「ONE」は、Gyutto!でダウンロード販売中。(ブランドはTacticsでなくBaseSon)
いずれも、当時から良くは言われてなかった絵がそのままのようで、オールドファンとしてはむしろ嬉しい。絵は問題じゃなかったんだこの頃は。


「WHITE ALBUM」以降のリーフ

フォロアーに煽られる側のLeafはというと、「To Heart」に続いて、98年には「WHITE ALBUM」をリリースした。

Leafファンの中でも原理主義的な人は、「To Heart」以前のビジュアルノベルしか認めない、と言い張るんだけど、そういう人を発生させる程度には、「WHITE ALBUM」はテイストが違った。
もちろん、引き続き支持する人の方が多かったように思うが、とにかく絶賛されていた感じの「To Heart」に比べると、温度差はあった。
なんか、嫌がる人は部分否定で済まずに、ばっさり全否定してしまうような雰囲気があったな。

シナリオライターも、高橋龍也から原田宇陀児に変わった。
そして出てきたものは、いわば純愛モノ的なシンプルな話だった「To Heart」から、『アイドルの彼女がいるんだけど、仕事ですれ違いが多くなって浮気する話』という、興味深いが冒険的な話になった。
「浮気とか絶対に許せん」とかいってる人も確かにいた。
主人公の藤井冬弥も、気に入らないという人も多かった。ぐじゃぐじゃ鬱陶しい言い訳しながら結局性欲で浮気するクソ野郎、と、確かにそういわれればその通りではある。
万人受けの「To Heart」に比べれば、人を選ぶのは確かだった。

今プレイするなら、最近になってPS3でリメイクされ、PC版はDMMでダウンロード販売されている。ただし、セックスシーンがカットされたりして、いわゆるエロゲーではなくなっているし、ということはおそらくシナリオも異なっているんじゃないだろうか。
当時のままのものは、もうプレイできないことになる。

リメイク版は絵も描き直されているけれど、一部は当時の描き手・カワタヒサシが描いているようだ。
当時から、複数人でキャラを分担して絵を描いてるゲームは多かった。「To Heart」もそうで、水無月徹とカワタヒサシ(当時は確か、ら~YOUというペンネームだったと思う)のふたりでやっていた。
しかしカワタヒサシという人は、一緒に仕事する人の絵柄に巧みにすりあわせて、違いが違和感にならないように調整するのが巧い。プロの仕事だとつくづく思う。
絵が違うリメイク版でも、そのすりあわせ技術に目を向けると面白いと思う。


「WHITE ALBUM」の次は、「こみっくパーティー」という、まさかの同人サークル経営シミュレーションゲームが飛び出した。

Leafは意外に、技術を駆使したがる傾向があった。
「雫」「痕」などのビジュアルノベル形式は、Windowsの機能があればこそ高度かつ簡単に実現できるものではあったけれど、Leafがそれを始めたのはDOSの頃からで、DOSでやるなら結構大変なはず。文字フォントを作ってしまうような手間もかけている。
この後も、3DアクションやらアクションSLGやら、ノベルゲームでは飽き足らないような姿勢でゲームを作っていく。

「こみっくパーティー」は、さほどゲーム性の高いものだったわけじゃないけれども、軽いコメディタッチのシナリオと秀逸なキャラ立てで、既存の読み物方面のファンにも上々の人気。
私見ではあるけど、ことキャラの秀逸さに関しては、Leaf歴代のゲームの中でも一番といってよいと思う。
家庭用ゲーム機にも移植され、旧来のオールドファン以外にも門戸を広げた。
どうも同じ99年リリースの「Kanon」と比べて、人気で一枚落ちるような扱いをされがちだが、こっちも紛れも無い大人気作だった。

私には、Leafファンコミュニティ時代から今でも付き合いのある友人らがいるのだけど、私と彼らは「こみっくパーティー」の芳賀玲子が、(シナリオの出来がイマイチだったせいだけど)不人気キャラ扱いされている風潮に叛旗を翻し、「何言ってんだ玲子かわいいだろ」と一致団結して集まった面々であった。
そういう秀逸なキャラゲーとしての熱量があった。

またこのゲームは、当時絵柄にすごい人気があったみつみ美里らをF&Cから引き抜いて設立した、Leaf東京開発室の最初の作品でもある。
F&Cのファンからすれば忸怩たるものもあるかもだけど、まあLeafファンから見れば、まったく新しいテイストを持ち込んで大成功した、となる。

アニメ化もされ、原作ファンには不評気味だったものの、同人誌を作った経験のある人たちに好評を得て、そっちのファンも掴んだ。
後に、原作のコメディタッチを再現するような再アニメ化「こみっくパーティーRevolution」も放送された。我々はこっちが好き。

今プレイするなら、「To Heart」同様にこちらもまだ現行商品となっているようだ。


で、大ヒットの直後が苦しいのは世の常かもしれないが、次作、2000年の「まじかる☆アンティーク」
こちらは、後に独立してPULLTOPを設立する椎原旬がシナリオを書いた。
またも読み物ゲームではなく、骨董品店経営シミュレーションゲームの形をとっていた。

しかし、どうもいまいち評価が高くなかった。
極めてビビッドなキャラゲーだった「こみっくパーティー」と比べれば大人しいし、「Kanon」ほど徹底的に読ませて泣かせるようなシナリオだったわけでもなく、悪くいえば中途半端な話だったのが悪かったか。
あるいは単に、新しいシナリオライターだから、高橋龍也じゃないから、と嫌がられたのかもしれない。原田宇陀児に対してもそれがあった。
「まじかる☆アンティーク」にはごく一部、隠しキャラ扱いのヒロインだけ高橋龍也がシナリオを書いたのだけど、「そこだけは面白い」などと公言するファンもいた。

でも、私や友人らの間では評価が高かった。
これまでのLeafを含めて、多くのキャラ攻略型のゲームは、各ヒロインのひとつずつの物語があるだけで、それぞれの物語がほとんど交わらないのが普通だった。「To Heart」も「Kanon」も、「こみっくパーティー」もそうだった。
しかし「まじかる☆アンティーク」は、各ヒロインが主役になる物語はあっても、常に他のヒロインが関与し続けて、無視されずに役割を得る。バラバラの話の集合体ではなく、すべてのストーリーを見終わった後に、全体がひとつの作品として調和していた。
そういう評価が、当時は得られなかった。

残念ながら不人気作扱いのためか、現在はダウンロード版の提供もない。
本数は多く出てるはずだから、中古があればごく安いはず。


そして決定的にやらかしたといわれるのが、2001年の「誰彼」

まあ、うーん、駄作といわれまくった作品ではある。
ただ、これは単に、ネットで今でいう「炎上」が起こってただけのことで、実態以上にバッシングされまくってしまったようにも思う。ネットのバッシングによってぶち壊される、という今ではよくある出来事の、かなり早い時期のもののひとつ。
しかし、燃料になりそうなゴシップが多い作品だったのも事実だ。

「WHITE ALBUM」の原田宇陀児の次回作、ということで開発が始まったのに、原田が途中で退社してしまい、竹林明秀(「To Heart」では青紫というペンネームだった)が引き継いだ。
元々、「大日本帝国が極秘に開発していた改造人間によるバトルもの」と、上手くやれば面白くなろうけど、それをエロゲーのシナリオにするのは? という話で、これを途中交代で続きを書けと言われたら大変だろう。

時期が正しいか自信がないけど、竹林明秀がかつて手がけた「痕」のオマケシナリオが、昔のショートショートSFのパクリじゃないかと指摘され、騒ぎになったのも確か「誰彼」の頃だったはず。
私を含めて気付いてた人は当時から大勢いたと思うんだけど、何で今頃に問題になったんだろう、と当時思っていたが、講談社からクレームついたせいだったらしい。
あとはまあ、竹林明秀も「To Heart」の時にちょっと天狗になってしまったというか、大きなことをちょっと癖のある表現で口走ったもんだから、「リアルリアリティ」とか流行語が出来て笑いものにされてしまったり。

そんなふうに、とにかくネットでネタにされそうな出来事を、ふんだんに供給してしまった。
「あまりに売れないから100円でワゴンセールに入れられていた」なんてデマが飛び交って、「誰彼100円」とか、竹林明秀は「100円ライター」だ、とか、もう口を極めて罵られていた。
「おまえの感じている感情は精神的疾患の一種だ。鎮める方法は俺が知っている。俺に任せろ」という一文が悪文の見本みたいに嘲笑われていたりもしたんだけど、この程度なら、読み手が意味を取り違えるような文章でもないし、いささか悪ノリだったと思う。

まあ、私は100円どころか、発売一週間後、「これは駄作っぽいぞ」と言われ始めていた時期に、量販店のフツーの価格、定価の1割引きで買った。誰彼愛。
主題歌つきはいつものことだが、今回はなんと男性ボーカル。Kayaの歌う「旅人」、これがなんともカッコいいか、カッコつけすぎて滑ってるかギリギリみたいな歌で、歌詞といいボーカルの節回しといい、そしてめっちゃナルシスティックなギターソロといい、大好きで今でもカラオケで入れる。誰彼愛。
ゲームシステムは、ノベルゲームに戻った。
とはいえ、ただ戻っただけでなく、「チップアニメ」と呼ぶ、格闘ゲームみたいなドット打ちで描かれた小さなキャラがアニメーションでアクションしまくる、手間はすごく掛かってそうなギミックがあった。
まあ、これも「なんで手の甲を前に向けて歩いてるんだ」とか笑われたり、私には「これ手間に対する効果は十分なんだろうか」とか心配されたりしたが、後にこの技術が「うたわれるもの」で結実するのだから無駄ではない。誰彼愛。

そんなこんなで、私みたいな「誰彼」好きだと公言しているファンにさえ、ネタとして愛されているような面のあるゲームになってしまった。
隙が多いこのゲームの、隙の多さを愛嬌と取るか、欠陥と取るか、そんな差だったかもしれない。


「誰彼」の数年後、竹林明秀が交通事故で急逝した、という報があった。
この時は、今まであれだけ嘲り続けていたところから、急に手のひら返したように「誰彼」もやっぱり面白かった、みたいな声があがったりして。
私も、斜めに見て笑っていたような面は大いにあったから、後ろめたいようなところはあった。だから、急に賞賛に回りたくなる気持ちはわからんではない。
しかしながら、私は本気で全否定しているつもりもないし、愛せる部分をたくさん拾い上げたつもりでもある。
だから私は、ことさら態度を変えず、相変わらずネタ半分本気半分、「む」と坂神蝉丸の真似をしてみたりしながら、今後共自称「誰彼」ファンでいようと思う。

「まじかる☆アンティーク」同様、リメイクもダウンロード販売もないようだ。
Leafが何かやるというウワサを聞く度に「ついに誰彼リメイクか!?」と反応するのも定番のネタだったんだけど、まあ、ないだろうな。


次作、2002年の「うたわれるもの」は、「こみっくパーティー」以来の東京開発室。
これまた秀逸なアクションSLGで、なかなか人気を得た。
やって面白いゲームだったし、家庭用ゲーム機にも色々移植され、アニメ化までされる人気作になったのもうなずける。
アニメ化した頃にやってたラジオが暴走して楽しかったりも。「真・うたわれるもののテーマ」のCDリリースとか、よくわからない方向にまで飛んで行ってたな。箱根のみなさーん、うたわれるものですよー。

ただ、「To Heart」から5年の時を経て、そして「WHITE ALBUM」以来少しずつ少しずつ積み重なった齟齬もある。
「うたわれるもの」のファンと、「雫」「痕」「To Heart」のファンとは、もちろん重なる人もいるだろうけど、かなり入れ替わってしまっているように思う。本当に根拠ない印象論だけど。
90年代後半からのエロゲーブームのうち、「葉鍵ブーム」と絞り込めば、「誰彼」をやらかし、「CLANNAD」が果てしない延期坂を登り始めた2001年を、ひとまずの区切りと捉えていいかと思う。

私自身は、この次の「Routes」とその次の「天使の居ない12月」まではプレイしたものの、さすがにこの頃には、かつての熱心さを失っていた。どっちも良作ではあると思うのだけど。


ちなみに、エロゲーの発売本数は、今日から始めるゲーム統計学というサイトで集計した記事があったが、2007年くらいまで増加を続けている。
2001年だと、2007年の6割くらいの本数でしかない。
だから、2001年はまだまだ、葉鍵ブームの一区切りと私が言ってるだけで、エロゲーの成長は止まっていない。


ちよれん(nitro+、0verflow、Age)とTYPE-MOON

さて、Leafが少しずつブームとずれていく時代にも、エロゲーというものが一般化していく傾向は続いていた。
そもそも、パソコンの普及率が上がり続けていた(社会実情データベースより)。2003年に80%くらいになるまで上がり続け、それ以後は同じくらいで安定する。
その頃までは、パイは膨らみ続けていたと見ていいだろう。

ならば、Leaf・Keyが2001年に足を止めても、まだエロゲー業界は止まらない。
代わって勃興するメーカーがあった。
それはTYPE-MOONと、ちよれんと呼ばれるnitro+、0verflow、Ageの3社だった。と、ここではしておく。

まあ、カンブリア大爆発のごとく多種多様なエロゲーが出ていた時期だから、とても業界全体を見るのは難しく、人によっては他のものがメインストリームに見えていたりはしたと思う。
例えば「D.C.」のCIRCUSとか、「とらいあんぐるハート」のJANIS、「月は東に日は西に」などのオーガストあたりも人気だったはずなんだけど、どうも私や周囲とはまったくマッチしないセンスで、まるっきり見えてなくって。



ちよれん3社については、まずnitro+。
もう今やアニメ原作だなんだかんだと、そこらじゅうで嫌でも名前を見るブランドだが、エロゲー業界に現れたのは2000年の「Phantom -PHANTOM OF INFERNO-」から。
以後、連続ヒットでどんどん存在感を増していった。

まあ、実は私は「鬼哭街」が面白いと思えず、「誰彼」の方がよっぽどカッコいいじゃねえかとか誰も同意しないことを主張したりしていたくらいには肌が合わなかった。
そこからさらに広げて、「nitro+とちよれん一党はLeafの天下にクーデターを図る反逆者だ」とか無茶苦茶いいながら、ちよれんを敵視しているという設定で遊んでたり。
(こんな遊びをおおっぴらにやったら本気にする人が出るので、あくまで内々で、自分を90年代Leaf原理主義テロリストと位置づけて笑いが取れる場面に限定したジョーク)


0verflowは、まあ私が知らないだけだが、この時点では「らーじPONPON」という妊婦ものなんてコアなことやってるブランド、くらいの印象しかなかった。
「School Days」をやらかすのはもっと後の2005年のことだし、プレイステーションに「シスタープリンセス」を出してたSTACKと同じ会社だと知ったのもずっと後。


Ageには、「君が望む永遠」というスマッシュヒット作があった。
その後も「マブラヴ」シリーズで存在感を見せていた。延期しまくってたけど。

「君が望む永遠」は、「WHITE ALBUM」を遙かにイヤな感じにしたようなドロドロの恋愛トラブルドラマ。文章量も膨大だったもんで、私はもう疲れ果てて、全部のシナリオを読み通すとこまで行けなかったな。
ただ、後にいうヤンデレキャラがいたのがよく印象に残っていた。
「School Days」も含めて、エロゲーの方からヤンデレを世に送り出したのは、ちよれんなのかもしれないな。


触れ方があっさりしてるのでわかるとおり、私個人としてはあまり肌に合わないブランドばっかりではあった。
ただ、Leaf時代からの友人でもnitro+を気に入るケースは多かったので、好き嫌いの差が出ただけだろう。本当にファン層とかけ離れていれば、オーガスト系みたいに「流行っている事自体が目に入らない」となるはずだから。
現にあれだけ成長していったからには、相応の内容はあるんだろうと思う。

時代の資料として今からプレイするなら、「Phantom」「吸血殲鬼ヴェドゴニア」「斬魔大聖デモンベイン」「沙耶の唄」、「君が望む永遠」「マブラヴ」、「School Days」あたりだろうか。
こうして並べ立てると、やっぱりポストLeaf・Key的なものに見えるかも。センスがまるで違うし、葉鍵的なものでは物足りないと思えてきた人への訴求力があったのかもしれない。

DMMを見ると、ニトロプラスは「デモンベイン」と「沙耶の唄」はあったけど、「Phantom」は続編らしいのだけ、「ヴェドゴニア」はなかった。権利関係かな。
Ageと0verflowはひと通りあった。



TYPE-MOONについては、現在進行形で人気があるわけだから、古い話として話さなくてもよかろうと思うが少し。

「月姫」が同人ゲームとしてリリースされたのが2000年末の冬コミ。私も多分翌年には、同人ショップで購入したはず。
2000年前後って、「同人ゲームの大ヒット」というのが現れてくる時期でもあって、1998年にはLeafキャラを使った格闘ゲームの「THE QUEEN OF HEART」が出て、2002年には「東方紅魔郷」「ひぐらしのなく頃に」が出ている。

「月姫」は、質も量もどうにも桁外れな、異様な同人ゲームだった。
それに、葉鍵系ファンとの親和性も高かった気がする。というか、葉鍵系のコミュニティに持ち込まれて大きな話題にならなければ、コミケに興味を持ってない私のアンテナにはなかなか掛からなかったはずで。
同じ伝奇ホラーということで、「痕」が好きなLeafファンのツボに入りそうな気もする。「痕」的な作品ってLeafからは出なかったから、その受け皿になったかもしれない。

しかし、もしかして「月姫」というのは、商業ベースでの再販もかかってなくて、現在は入手困難なんだろうか。
あれだけアニメにコミックにと広がったものが、今から原典に当たれないというのは意外だな。


ライアーソフト

市場が小さいと、メインストリーム的なものしか話題にも商売にもなりにくいのだけど、膨らんだ市場ではバイプレイヤーの存在する余地が出てくる。
まあ、メインになれなかった、という意味のバイプレイヤーは無数にあるんだけど、ひと味ちがう作風のブランドだと認知されながら、一発屋ではなくずっと活動し続けていた、という意味で、ライアーソフトは名脇役だろうと思う。

1999年に世に出てから、タイトル見ただけで何かちょっとおかしなゲームをずっと出し続けていた。
母体がTRPGなどで知られた遊演体で、そこから風変わりな発想力が出てきていたのかもしれない。

2000年の「行殺♥新選組」は、新選組の隊員を萌えキャラ化した歴史女性化ネタ。2002年にボイス入りになった「行殺新選組ふれっしゅ」も出た。
いちいち史実を踏まえているくせに不条理にぶっ飛ぶ、レベルの高いギャグが連発される秀作。芹沢鴨を、カモミール芹沢なる金髪女性にすり替える発想のキレからして、すでに見事。この冴えっぷりは全編に及ぶ。

他に「サフィズムの舷窓」(2001年リリース、2004年ボイス入りリメイク)なんてのも、男のいない船を舞台にただただ百合というかレズというか、挑戦的なことをやっていた。今みたいに、なんとなく百合っぽいのが好まれがちになるような時代ではない。
これは特に百合好きに限らず、耽美調を装ってあれこれやらかすネタが面白いコメディ作品としても読める良作。

また、「電波ソング」というのもエロゲーの影響がかなり大きいもので、初期のヒット曲『メイドさんRock'n Roll』も『恋愛CHU!』も『さくらんぼキッス~爆発だもーん~』も、みなエロゲー主題歌。
ライアーソフトもかなり早い段階からおかしな主題歌をつけていて、「行殺♥新選組」とか「ぶるま~2000」の主題歌で、電波ソングブーム勃発の一翼を担った。


で、現在TYPE-MOON所属で、アニメ「世界征服~謀略のズヴィズダー~」の脚本をやった星空めておの、ライアーソフト時代の最高傑作たる「腐り姫~euthanasia~」が、2002年に出る。
最高傑作というのは、単に私が好きだからそう言ってるだけではあるのだが。

外形は「痕」とか「月姫」のような伝奇ホラーなんだけど、終盤に物語の全貌が見える頃には、まるで違う話だとわかってくる。
最終的には当時流行した類型そのものの物語ではあるんだけど、それをここまで鋭く美しく書いた作品は他にない。

説明するほどバレるゲームだから、人に勧めるときも説明しないのだが、私がやったことのあるエロゲーから最高のものを3つ選べと言われれば間違いなく入れる。1つといわれても、迷って「腐り姫」を選ぶかもしれない。
それくらい、刺さる人に刺さる作品だった。


ライアーソフトはダウンロード販売に積極的で、今でもウェブサイトから多くの作品が購入できる。
挙げた3作はいずれもおすすめ。
「腐り姫」はグラフィックの解像度を上げたものが販売されていて、ちょっと嬉しい。


椎原旬とPULLTOP→SEVEN WONDER

Leafで「まじかる☆アンティーク」を出した椎原旬は、退社して独立、PULLTOPを起こす。

PULLTOPは今では結構人気のあるブランドらしいのだが、2002年の独立一作目「とらかぷっ!」は、「まじかる☆アンティーク」の時点で椎原旬という人への評価がもうひとつ良くなかったし、あんまり目立つ門出ではなかった。

「まじかる☆アンティーク」はほのぼのしたテイストだったけれど、PULLTOP時代の椎原旬は、芸風がぐっと明るくなる。
ギャグっぽすぎるわけでもなく、悪ノリじみてるわけでもなく、夏っぽいとでもいうか、気持ちのいい明るさが出た。それが、「まじかる☆アンティーク」以来の、常に登場キャラ全員を絡めてストーリーが展開する賑やかさと合わせて、なんともプレイ感がいい。

PULLTOPは、椎原旬シナリオ・たけやまさみ原画のコンビのゲームが2年に一度、その間の年には外注シナリオ・藤原々々原画のゲームが、交互にリリースされる体制をとった。
二作目の「夏少女」こそちょっと滑った感じはあるけれど、どちらのラインも秀作を出し続けていく。

椎原ライン二作目・2004年の「お願いお星さま」は、王様ゲーム的なネタでコメディに振った。
「どのキャラのシナリオでも、他のヒロインを捨てキャラにしない」というのが、私がずっと椎原旬を見続けて見出したイズムなのだが、これはそれが煮詰まった形と私は思ってる。
三作目・2006年の「PRINCESS WALTZ」は、外観は姫騎士モノのようだけど別にオークとか出ないので「くっ……いっそ殺せ!」とかはやらない。
これはちょっと特異なゲームで、先のイズムを突き詰めすぎたら違う方向に抜けたような内容で、上級者向けか。これはよく見ると、ヒロインひとりしかいないゲーム。ヒロインがひとりしかいない、じゃなくて。
四作目・2008年の「てとてトライオン!」は、わかりやすく明るく楽しいゲーム。人に勧めるなら「とらかぷっ!」かこっちか。

一方の藤原ラインは、2005年の二作目「ゆのはな」で火がつきはじめる。
複数ヒロインのオーソドックスな形式ではあるけれど、泣きゲー的な要素も、やたらキャラの立った脇役が引っ掻き回すコメディ要素も、ヒロインに振り回される主人公も、当時のトレンドを高度かつバランスよく取り入れた秀作だった。
それから、どうもこうエロいゲームだった。ずっとエロゲーの話してるくせにエロいという話をさっぱりしてなかったのだが、これは。
2006年末の三作目「遥かに仰ぎ、麗しの」もまた同様に高水準で、これはいよいよ大人気になった。
これも確かに面白いのだが、前にエロかったような部分が笑いどころになってしまった。未だにたまにネタにされてるの見るな……
2009年に「しろくまベルスターズ♪」をリリース。これも少し小粒感はあるが、もちろん佳作。
椎原作品が夏っぽいイメージなのに対して、藤原作品はどれも冬が舞台で、おそらく狙ってやってると思う。

ああ、PULLTOPのゲームをやって、声優さんについて気付いたことがあっても、あまり公言しないのがよろしい。こっちの仕事を違う名前でやってるなら別人だとするのがマナー。


順調にヒットを連ねていたPULLTOPだけれど、一体何があったのか、創立者であるはずの椎原旬と、第一作からのコンビであるたけやまさみが揃って退社。
彼らは再び独立するように、SEVEN WONDERブランドを立ち上げる。
PULLTOPの新作は藤原ラインが残るのかと思ったら、ほとんど違う面々による新作が発表され、そのまま今に至る。

SEVEN WONDERになってからも変わらず椎原らは佳作を出しているが、藤原ラインは消え去ってしまった。
好調なものが突然割れたように見えていたけど、一体何があったんだろう……


椎原・藤原時代のPULLTOP旧作は、ダウンロード販売などは見当たらない。
オフィシャル通販にあたるウィルプラスで、今でも新品を通販で購入できるようだ。「とらかぷっ!」と「お願いお星さま」は廉価版になっていて買いやすい。



今も他方面で活躍する人々

「To Heart」の高橋龍也が現在はアニメ脚本で活躍していたり、nitro+がアニメ原作に入ってきていたりする昨今だけど、それ以外にも、エロゲー方面から世に出た人は多くある。


高橋龍也はというと、Leafを退社して独立、playmというブランドを設立した。

2004年に「リアライズ」をリリース。
「To Heart」路線よりは、「雫」「痕」に近いが、伝奇ではなくて、ラノベでいう学園異能モノ。しかしそれを変にテンションを上げず、渋くクールに描いていく芸風だった。

私は「高橋帰ってきたなあ」と喜んでいた作品だったし、今でも至って優れた作品だったと思ってるのだけど、なぜかネットでひどくバッシングされて駄作みたいにいわれてしまったなあ。
ネットって、例えば「誰彼100円」みたいに、バッシングのために作られたワードだけがやたらと乱用されて広まるケースがあるけれど、「リアライズ」においては『ジャンプの打ち切りEND』というワードがぽんぽん飛び交っていた。
話が終わっていないエンディングだ、といいたいらしいのだけど、私はむしろ、一から百まで事細かに解説せにゃダメだと言い出す風潮があるんだな、と驚いたくらいで。
この後に人気マンガの「ホーリーランド」が終わった時も同じようなケチがついて、同じようになぜ全部説明しろと言い張るのか理解できなかったんだけど、これは世代のものなのかな……

2006年に「レイナナ」をリリースして、playmは活動停止状態に。
まあ、残念ながら「レイナナ」はヒットせず。まあ私があまりエロゲーに意欲を持てなくなってた時期ではあれ、これはあまり面白いと思えなかったな……。
途中でシューティングゲームを挟み込むような、意欲的といえば意欲的な作品ではあるんだけど、そのシューティングがMS-DOS時代みたいなレトロさで、意欲が空振りしてた感じが。

なお、どちらもサントラが秀逸。未だにちょくちょく聞いてる。入手困難だろうけど。
ゲーム本体もどちらもDL販売などはないみたいで、現在はプレイ困難か。「リアライズ」はPS2版があるが、入手性はわからない。

高橋龍也はこの後しばらく音沙汰がなく、消えた人かと思われていたが、だんだんとアニメのスタッフロールに名前が見えるようになってきて、今に至る。
ゲームは出していないし、今後ゲームで名前を見るとしたら、新作アイドルマスターのシナリオとかなのかもしれない。



現在はラノベ作家として、「10歳の保健体育」「彼女がフラグをおられたら」などで活躍中の竹井10日は、Marronというブランドを自ら起してゲームを出していた。

2001年のデビュー作「秋桜の空に」は、発売当時は無名ブランドからぽろっと出た、まったくノーマークの作品だった。
しかし、「異様に面白いゲームがある」という口コミが広まって、じわじわ売上を伸ばしたという珍しいケースの作品。

なんか、色々変で荒削りなゲームではあった。
絵も上手いとはいえなくて、パースが狂ったままどーんとフル画面で出てきたりしちゃう。
音楽も、なんで学園恋愛ゲームのヒロインのテーマBGMが、ハウスとかドラムンベースだったりするんだと頭を抱える。とにかくシンセで打ち込んじゃったらしいサイン波重低音ベース、サブウーファーか大型ヘッドホンでしか再生できなかった。
ゲームのシステムプログラムもバグっぽくて動くOSが限られ、たまりかねた有志がシステムをそっくり作り替え、Windows XPやLinuxに対応したものを開発・配布したりしたほど。
そして、そんなことをさせてしまうほど、強烈で鮮烈に面白い作品だった。

当時、ほとんど注目されていなかった「姉属性」というのも、エロゲー側から世に送り出したのは紛れもなく「秋桜の空に」だった。この点だけでも、「姉、ちゃんとしようよっ!」というフォロアーを発生させるインパクトがあった。
また、ツンデレを、現在典型と思われているような「ツリ目金髪ツインテール」で出してきた作品でもある。これは「秋桜の空に」単独の功績ではない(ほぼ同時期の「君が望む永遠」にもいる)にせよ、さきがけのひとつではある。
主人公が悪ノリ型の破天荒な奴である、というのも、前例がないわけじゃないにせよ、この人ほど飛ばした破天荒さもまたなかなか見られない。
しかもそんな主人公に、それに同等以上の悪ノリを合わせてくるヒロインを置く。

エロゲーブームは大勢の才能を世に出したけれど、巧いとか優秀とかじゃなくて、天才というべきなのは竹井10日だろう。

2003年の次作「お姉ちゃんの3乗」(おねえちゃんキューブ)も、奇作だった。
いくら姉属性を切り開いたメーカーの作品だからって3乗ってなんだよ、と思うのだが、主題歌の歌詞が『お姉ちゃんが大好きなら お姉ちゃんが増えてもいいね』とくる。で、本当に増える。大勢の姉キャラが配置されているんじゃなくて、文字通り増える。
頭がおかしいか天才かどっちかだろう、という発想だが、プレイするとますます度肝を抜かれる。

2007年に「ひまわりのチャペルできみと」をリリースして、ラノベ作家に転進する。
転進すると今度は、あの「らき☆すた」のノベライズを担当しておきながら、作中で柊かがみに「ひまわりのチャペルできみと」の宣伝をさせるとか、本当に斜め上のことをしでかす。
おかげで「らき☆すた」ファンにバッシングされて他の人に替えられてしまったのだが、どこ吹く風でオリジナル作品でまた名を挙げて今に至る。

この天才の昔の仕事、どれも破壊的に面白いのだけど、あいにく現代的なリメイクもされていないし、ダウンロード販売などもない。今からプレイするのは困難なのが残念。



それから、GROOVER「グリーングリーン」という秀作があるのだけど、これはスタッフがみんな後に大物になっていった作品だった。
スタッフもさることながら、ゲーム自体も実に面白い。基本的にはコメディタッチで、バカ男子学生が女の子目当てに突っ走るような話なのだけど、それだけでは終わらせずに綺麗に仕上げたストーリーが揃っていた。

シナリオは桑島由一とヤマグチノボル。
どちらもラノベで活躍して、桑島由一はアニメ化もされた「神様家族」を出した。
ヤマグチノボルは知っての通り「ゼロの使い魔」の作者。あんなに早く亡くなるとは……。
さらにプロデューサーは、milktubのbamboo。今はアニメソング界隈でも存在感が高いが、「グリーングリーン」でもクオリティの高い曲を、各ヒロインごとに別のエンディングソングをつけると贅沢な内容にしてくれていた。

現在での再プレイは難しいのかと思いきや、2013年にクラウドファンディングでもってリメイクされている。



また「人類は衰退しました」の田中ロミオも、かつて「CROSS†CHANNEL」というゲームで人気を博したシナリオライターでもある。
そして、田中ロミオの旧ペンネームが山田一といって、こちらの名前の頃は、「加奈 -いもうと-」とか「家族計画」で知られる。

「加奈 -いもうと-」は1999年リリースで、同年の「Kanon」と並んでとにかく泣かせるゲームだと有名になっていた作品。重病の妹の面倒を見る話で。
私はやってないのだけれど、当時極めて知名度が高かった。
現在もDMMからダウンロード販売されている。またPSP移植版もある。

「家族計画」は2001年のゲーム。
色んな意味で社会不適合な人間らが一軒家に寄り集まって、両親と子どもたちを装った偽装家族として共同生活を始める、という不思議な設定から話が広がっていく。
ラノベになったら「AURA ~魔竜院光牙最後の戦い~」とか書いてしまう田中ロミオだが、何らかの意味で欠陥のある人たちの物語を描くのがつくづく巧い。
こちらもDMMからダウンロード販売がある。

「CROSS†CHANNEL」については、全年齢版としてPS3/Vitaでリリースされているのが手に入れやすい。
また、全年齢版の追加シナリオを含めてリメイクしたPC版が、今年の9月26日に発売。

田中ロミオを抑えるなら、とりあえずこの3作がいいかと思う。自分がやってないゲーム勧めてるけど。



アニメ「アカメが斬る!」の原案・タカヒロも、エロゲー時代にアニメ化まで持っていくヒット作を連発していた。
彼のゲームブランド・みなとそふとは今も活動中で、過去のものではないけれども。むしろみなとそふとの活動として「アカメが斬る!」をやったようだ。

最初にヒットを飛ばしたのは2003年の、きゃんでぃそふと「姉、ちゃんとしようよっ!」という、いちびった小学生みたいなタイトルの姉属性ゲーム。
2003年時点でもやはり、オタクの好きなもの=妹と思われていた中で、真っ向から逆らってヒロイン全員姉属性、という一点突破な作品。
明らかに「秋桜の空に」の影響を受けたキャラが居たりするのだけど、パクりというよりリスペクトなのは見えていたので、概ね笑って受け入れられていた。
「姉萌え」というのは、竹井10日が開けた穴をタカヒロがぶち抜いて広げた、というところだろうか。

セカイ系的な大風呂敷を広げるわけでもなく、無闇矢鱈にただただ泣かせようとするのでもない、わりと平凡な世界に、とにかくビビッドなキャラを置く、ハーレムもの的な造りが上手い。
もう少し前のゲームだと、難しいこと考えながら遊ぶほうが面白い作品が多いのだけど、タカヒロ作品はそう身構えなくてよかった。

その次に、2005年には「つよきす」をアニメ化まで持っていくヒット作にする。
姉属性というか、立場が上の女性ヒロインを描くのが巧みで、その後こういう造形は流行になっていった。
これもよく出来たゲームだったが、タカヒロ自身は最初の1作だけ作って退社し、みなとそふと設立に動く。
きゃんでぃそふとは引き続き「つよきす」をシリーズ化するのだけど、こちらにはタカヒロは関わっていない。

「姉しよ」「つよきす」ともに、DMMでダウンロード販売あり。
「姉、ちゃんとしようよっ!2」もタカヒロの手になる作品だが、「もっと~」は退社後に別のスタッフが作った続編。



ニッチの天才・WINTERS 平井次郎

WINTERSというブランドは、あまり有名な作品もない。
別にエロゲーブームの中で存在感を示していたわけでもなく、知る人ぞ知る、という程度。
平井次郎という、これはこれで一種の天才というような人が、おそらくひとりで(絵や音楽は外注して)、自由にやってるようなブランドだ。
ウェブサイトからして異様なのだけど、作品もしっかり異様。
しかし、ただ単に異様というわけでもなく、やはり天才的にも見えてしまうところもある。

やはりエロゲーの主流は恋愛モノで、そうでなければいきなり陵辱モノまで飛んでいく両極端なものになりがちなのだけど、WINTERSの「こんなアタシでも……」という作品は、その枠を踏み割る。
主人公が恋したヒロイン・東雲真冬は、貞操観念が一切欠如していて、見も知らぬ男と平気で寝てしまう女だった。「こんなアタシでも好きになってくれますか」という問いから物語が始まる。

「ゴメンなさい……アタシのせいで」は、自分にまったく自信がない主人公が、突然女の子に告白される。しかしその子もまた自信がなくて常に何もかもに怯え続けるような性格。自分に自信がないが故になぜ好かれたかもわからない主人公は、怯える彼女をつい「いじめて」しまう。
Leafの「天使のいない12月」と似たような設定ではあるが、こちらが2年先行している。

この、ヒロインを理解不能な異物と位置づけるような尖った物語は、WINTERSを知る人ぞ知るブランドとさせていた。


しかし、常人には理解できない作品も多い。
「感覚の鋭い牙」なんて、タイトルからして名状し難い異様さがあるのだけど、内容も本当に混沌としている。そこに、凄まじくトランシーなテクノBGMが襲ってきて、麻薬みたいなエロゲーだ。
ごく一部のネタ画像好きには、地球とセックスするエロゲー、として画像だけ知られていたりもする。何のことかわからないと思うが、そのままのものが画像で出る。

看板タイトルの「KISS×n00」シリーズも、タイトルだけ見ればキスフェチ的な作品のようだ。
しかし、キスにこだわりは確かにあるものの、それだけでは収まらない。

「KISS×200 とある分校の話」は、僻地の学校に教師として赴任することになった主人公が……とか、そんな寒村インモラルもの、ではあるのだけども。
なぜかロシアから北方領土を奪還しなければならないというメッセージが込められていて、"露"への警戒をゆめゆめ怠たるなと、エロとも物語とも関係ない設定がぶんぶん振り回される。
どこの世界に、ヒロインが「阿頼度島、占守島、幌筵島、志林規島……」と千島の島の名前を順に暗誦するエロゲーがあると思うだろう。
このBGMもやっぱりトランステクノ。日本のド田舎なのにトランス。そして千島列島暗唱。
千島奪還はWINTERSには常に付きまとうので、他の作品でも突然来る。

このへんはもう、薬事法とか麻薬取締法に触れることが絶対にない合法ドラッグ、くらいに思ってもいいかもしれない。
常人がおかしい人を装ったところで、こんなもんは作れない。ある種の天才の技しかありえない。
ニッチの極北として、エロゲーの世界にはこういうものもある。
もちろん、私の知らない別の極地もきっとあるだろう。

WINTERSはほぼ全作品が、DMMなどからダウンロード販売中。
セット販売が好きなブランドで、「こんなアタシでゴメンなさい……」という2作セットがあったり、「KISS×∞」というKISS×シリーズセットがあったり、果てはその時点での発売作全部セットなんてものまで。購入時には重複に注意だ。



いつにもましてだらだら長い記事になったけれども、とりあえずここで〆る。

話の流れからずれてて挙げてないが、電波ソングで有名な「カラフルキッス ~12コの胸キュン~」は記憶に残る作品。
2003年時点で「ヒロインが妹ばっか12人」なんてやらかして、おまえそれ「シスタープリンセス」以外の何のつもりだよ、とツッコミを受けながら発売、蓋を開ければ、「Kanon」とかのBGMで有名だったI've(当時は電波ソングメーカーなんてイメージはない)があの頭のおかしい主題歌、しかもイロモノと思わせてプレイしたら意外とよくできて面白い、と、人騒がせなシロモノだった。
これはVista対応の廉価版が出たようだが、それも2007年末でかなり前。DL販売も見当たらないので、中古探すしかないのかな。知名度はあるゲームと思ってたのだけど……。

まあ、他にも「あんなのもあった」と思いだしてくるかもしれないが、キリもないのでこのへんで。

私は決して数多くエロゲーをプレイしていた方ではないのだけど、それでもこれくらい喋ることが出てくる。やっぱり充実した時代だったんだと思う。
2000年くらいは、「仮にもオタクといわれる人間はまずバイトしてPC買ってエロゲーやるのが当たり前」くらいの風潮だったから、今と比べれば圧倒的に影響力があったのだ。
今になって古い作品をプレイしたって、歴史を学ぶことにはなっても、あの時代を体験できるわけではない。寂しいものだ。

そういう意味で、やっぱりブームには美味しい内にコミットしておくのがいいかもしれないな。
例えばラノベなんかも、今よりも2006年くらいのほうがかなり美味しかったように思う。
まんがタイムきららの萌え四コマがアニメ化される度に当たる風潮もあるけど、これもそろそろアニメ化すべき原作が枯渇してきそうだから、今後3年も4年も続く感じじゃないかも。
次は何がくるだろうなあ。