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2014年7月20日日曜日

高度1万メートルのボーイング777はどれくらいの大きさに見えるか

 ウクライナ上空で撃墜されたといわれている、マレーシア航空MH17便のボーイング777-200型機。
 なんだって民間の旅客機がそんなややこしい所飛んでたんだろう、と疑問に思ったのだけど、確認すると、今回のマレーシア機は高度1万メートルを飛んでいて、飛行禁止の高度より高いところだったそう。


 高度1万メートルを飛ぶボーイング777-200型というのは、果たしてどれくらいの大きさに見えるものだろうか。



 Wikipediaによると、全長63.7m、全幅は200型・200ER型で60.9m、200LR型で64.8m。
 どっちの型かわからないが、全長・全幅は近い大きさなので、全長63.7mで計算する。

 距離10000mで、全長63.7mのものがどう見えるか。
 どれくらいの大きさで見えるか、というのは、視角で求める。

 10000mの辺と、63.7 ÷ 2 = 31.85mの辺を直角につないで、余った頂点を結んだ直角三角形があると考える。
 するとタンジェントは31.85 ÷ 10000 = 0.003185 と求められる。
 そのアークタンジェントから、直角三角形の鋭角の角度を出して2倍すると、0.365度と出る。これが視角。Excelで簡単に計算できる。

 視角0.365度というのはどれくらいか。いくつか例を計算してみた。


  • 視力0.05で見える、ランドルト環の隙間の幅。(参考)
  • 一円玉(直径2cm)を、3.14m離れて見る。
  • 身長170cmの人が、267m離れたところにいる。
  • ランボルギーニ・ガヤルド(全長4.3m)が、675m離れたところにある。
  • ガンダム(18m)が、2.83km離れたところにある。お台場のやつを、品川インターシティ、東京電力新豊洲変電所ビッグドラム、東京有明医療大学あたりから見れば近い。
  • 通天閣(高さ100m)を、15.7km離れたところから見る。信貴山や生駒山、大阪空港、甲子園、などから通天閣までの直線距離。高さと地球の丸さは無視。
  • 戦艦アイオワ(全長270.43m)を、42.4km先から見る。見た目の大きさとは無関係だが、戦艦大和の46cm45口径三連装砲の最大射程が42026mなので、大和とアイオワの喧嘩すら起こらない距離。
  • 月(直径3474.3km)を、544,488km離れたところから見る。地球からの距離が384400kmくらい。
  • 太陽(直径1,392,000km)を、218,370,000km離れたところから見る。地球からの距離が149,597,871km。


 まあ、空の中にぽつんと存在すれば、目視は十分できる。
 月の直径の7割くらいの全長になるので、月に飛行機がかかってる写真が絵になりそうな大きさ。


 このニュースを初めて聞いた時は、「なんだRPG-7でもぶっ放したら偶然にも当たっちゃったのか」と思った。一応飛行機を目視できるわけだから、みんな対空射撃のつもりでAK-47ぶっ放しながらRPG-7も一緒に飛ばしたら奇跡的に当たっちゃった、みたいな。
 だけど、RPG-7の射程は1000mくらいのもんで、しかも打ち上げだったら間違っても届かない。
 クリミアの親露派は、9K38イグラのようなひとりで扱える携帯式地対空ミサイルを使って、ウクライナ空軍にかなり被害を出しているようだけど、これも1万メートルの撃墜に使えるようなものとは思えない。
 ゲパルトみたいな対空機関砲を備えた対空戦車でも無理な高度。
 私が素人目で簡単にぐぐった範囲では、今回使われたらしい9K37ブークのような地対空ミサイルシステムとか、軍艦が備えている艦載砲システムくらいでないと、高度1万メートルは攻撃できなさそう。


 今日見てたテレビニュースでは、「1万メートルの飛行禁止区域外だからって、安全だと思い込んでいたんではないか」というようなコメントがあって、まあ実際安全ではなかったとはいえ、これはテレビのコメンテーターがよくやる後知恵なのか、それともまっとうな指摘なのか。

 1万メートルなら、ゲリラが調達できる程度の対空兵器では届かない距離だろう、というのは、そう異常な判断ではないのかなとも思う。
 とはいえ、小泉悠氏のような事情をよく見ている方は、ロシアから防空システムが供与されている可能性も排除できない、と見ていたりもして、飛行禁止区域を決めている人たちは、少し見通しが甘かったのかな、とも思う。
 しかし、そんな大規模な防空システムは、数人の兵士やゲリラが独断でうっかり使用してしまうというものではない。ウクライナ軍なりロシア軍なりが、指揮命令のもとで動員しないと、9K37は動かせるもんではないと思う。それが、誤認か何かをしでかして民間の大型旅客機を攻撃するというのは、なかなかあるものではないと思える。
 ただ、紛争が起きているようなややこしい状況では、かの米軍もF-14とエアバスA300を間違えて撃墜する大ポカをやらかしたこともあるんだし、ありえないことではない。
 どうだろう。クリミアを避けたらルートロスが大きくなるとか、何か別の事情もあったのかな。


 まあ、マレーシアの民間機を攻撃するというのは、誰も利益にもならないように思えるから、誰がやったにせよ何かの誤認だろうとは思う。
 こともあろうに9K37まで引っ張りだして間違えるとは何なんだろう。たまたま似たような航路かタイミングで、敵軍の航空機が飛ぶような情報があったとか、そんなことかな。