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2014年9月6日土曜日

映画「NO」

前に「革命の子供たち」を見に行った時に予告編やってて、こりゃ面白そうだとチェックしておいた「NO」を見に行ってきた。

これはまったく愉快痛快、笑えてエキサイティングな革命映画だった。おすすめ。




チリが15年に及ぶピノチェト軍事独裁政権下にあった1988年。

ピノチェトは経済成長を成し遂げて、食料にすら事欠くほどの貧しさを脱出させた。
一方で、アメリカのシカゴ学派から導入した過激すぎる新自由主義経済政策で、国内工業の衰退や貧富の格差の増大を招き、貧困率が40%を超えるくらいの状態に。
また、ソ連寄りだった政権に対し、CIAの支援を受けてクーデターを起こしたピノチェト政権だけあって、左派への弾圧も苛烈。強制収容所が作られて拷問が行われ、数千人が死亡または行方不明、人口の1割が経済・政治的理由で亡命するほどに。

そんな状況の中、89年に任期が切れるピノチェト大統領を、引き続き大統領にいただくかの信任投票を行うことになった。

当然こういうのは、ピノチェトが対外的に「私はちゃんと民主的に選ばれた指導者なのだ」とアピールするためのもんで、まあ出来レースみたいなもん。北朝鮮でも選挙はやる。
投票は、ピノチェトにSi (Yes)かNoかのシンプルな無記名投票。
公平な選挙運動も認められ、国営テレビでSi派・No派それぞれに一日15分の枠をもって自由にアピールすることができる。

しかしもちろん、ピノチェトは反対派に共産主義者のレッテルを貼り、警察や軍を使って弾圧するくらいは平気。
まあ、No派が勝つなんて誰も思っていないし、No派に加担したら共産主義者だといわれて何をされるかわからない。

そこに、No派のテレビCMを作れと起用された若手広告マンが、主人公のレネ・サアベドラ。
家族ぐるみの付き合いがある友人だった左派政治家に頼まれて。
演じるのは、あの『モーターサイクル・ダイアリーズ』でチェ・ゲバラを演じたガエル・ガルシア・ベルナル。

No派は、実に17もの党派が反ピノチェトだけで野合した集団で、それぞれ主義主張も違う。
そこに、レネはまるでコーラのCMのようなアメリカ消費文化ノリの映像をぶつける。
当然、ピノチェトの悪行と、それによって生み出された悲劇を生真面目に訴えようとしていたNo派陣営からは、ふざけてると思われて、モメにモメる。

しかし、レネの「Noと投票することで得られる、明るい未来の喜びを謳いあげる」というポリシーでの映像作りが、チリの人々を動かしていく。

まあ、この信任投票でピノチェトが負けることは、もう史実がそうだから25年前にわかっている。というか「NO」というタイトルもネタバレみたいなものだ。
しかしわかってはいても、放送を重ねるに連れて勢いづいて、内容もどんどんおもしろくなるNo派の放送。
映画終盤には、映画館の客席まで沸かせるセンス抜群のおもしろ映像になっていく。支持が広がり、国中も客席も盛り上がっていく。
逆にSi派は、挽回しようにも映像を作れるアーティストや俳優がみなNo派に流れ、どんどん陳腐なものになっていく。そして、不当な検閲や製作陣への嫌がらせなど、悪質な手口に流れる。

月並みな言い方ではあるけど、No派の勢いが映画館の客席まで巻き込みながら勝利まで突き抜け、戦って勝つことを一緒に体験させてもらえるような気になれる。
ひとりか数名のヒーローが悪を倒すような映画とは違って、ムーブメントの一員として勝利に参加できる感覚は、ひどく気持ちがいい。
エンターテイメントとしても楽しめる、秀逸な社会派映画だ。社会派とかどうでもいい人でも楽しめると思う。



しかしまあ、私はめんどくさいやつなので、すげえ面白かったなあ、と思いつつも、また立ち止まって余計なことを思ってしまう。
映画としては、面白かった、で終わるほうが幸せなのだけど。

まあその、選挙というのは本来、ひとりひとりがよく考えたその結果を反映させるべきものであって、愉快なCMに煽られたムーブメントによる結果は正しくないんじゃないか、と、私の頭の中で声はする。
私は民主主義なんてまったく信用できなくて、人はひとりひとりなら優れていたり面白かったりするけど、選挙とかで平均化してしまうと圧倒的につまらなくて低レベルで誤ちを犯すものに成り下がる、と信じている。まして、その場の勢いで流れている人の集団なんて、巨大な危険物くらいに思える。
だから、日頃の私の信念からいって、映画のムーブメントに巻き込まれた気分になってちゃいかんのだ。


一方で、何らかの運動をやるにあたって、クソ真面目に堅い話していても誰もついてきてくれなくて、面白くしなくちゃ話にならない、というのは、どうしようもなく現実にあると思う。
まともで真面目で重要なことを訴えようとするほど、どうしてもクソ真面目で面白くない方向に向かってしまう。そして誰もついてこない。映画でもそれは語られた。
真面目な話を面白く、をやれるセンスの持ち主なんて、忌野清志郎くらいじゃなかろうか。

面白い活動、というのに成功してるのは、一方的な正義を振りかざして人を袋叩きにする、というまったく楽しいことをやってる連中くらい。嫌なもんだ。



今回の予告編にも面白そうなのがいくつか。
韓国映画「レッド・ファミリー」なんて愉快痛快そうだし、固いところでは「シャトーブリアンからの手紙」もいってみたい。